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  • 2019/09/24 掲載

「データが通貨」の時代、監視社会を肯定する人が続出するワケ

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決済など「お金のあれこれ」のデジタル化により、ITプラットフォーマーは購買履歴に基づく趣味や嗜好といった個人データを握るようになった。「データが通貨」の時代、私たちはこのまま“プライバシーの死”を受け入れるのか。第二回 武邑塾2019では、黒鳥社 若林恵氏をモデレーターに、メディア美学者 武邑光裕氏、三菱UFJ銀行常務執行役員 林尚見氏、慶應義塾大学経済学部教授 坂井豊貴氏がパネルディスカッションを展開。日本が構築すべき「データエコシステム」のインサイトが議論された。
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(左から)
若林 恵氏(黒鳥社 コンテンツディレクター)
坂井豊貴氏(慶應義塾大学経済学部教授)
林 尚見氏(三菱UFJ銀行常務執行役員)
武邑光裕氏(「武邑塾」塾長)

GDPRは自己決定権をどこまで規定するか

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慶應義塾大学
経済学部 教授
坂井豊貴氏
坂井氏:あらゆる領域でデジタル化が進み、人やお金、データの流動性が高まる一方、GDPR(EU一般データ保護規則)などにより、規制の力でデータの独占も阻む取り組みが加速しています。武邑先生に改めてGDPRとデータ経済の論点や疑問をうかがいたいです。

 GDPRでは、「自分の情報は自分が管理する、自分が許可をした相手にしかその情報を伝えないようにする」と説明されます。しかし、何かのサービスを人が使わざるを得ない状況にあったときには、もう自分の情報を差し出さざるを得ないのではないだろうか、というのが僕の疑問です。そういう状況では「選択の自由」は事実上ないのでは。

武邑氏:GDPRでは、結局それも自己決定権として、個人の主権の中に組み込まれています。そうせざるを得ないことが個人にとって利益もしくは阻害になろうとも、それは自己が決定します。

坂井氏:なかなか厳しい世界ですね。よく経済学では、「自由市場では、選択とは自分が選んだものだ」といった言葉遣いをします。しかし、これを法哲学者の前でいうと、「選択肢が事実上1個しかない人間には、選択の自由というものはない」と叱られます。

 少なくとも十分選ぶ価値がある選択肢が2個ある状態でなければ、選択の自由があるとは言えない。1つしかないのであれば、それは不自由なわけです。僕もそのお叱りはごもっともだと思います。この問題はGDPRでは真剣に論じられているのでしょうか?

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メディア美学者
武邑塾 塾長
武邑光裕氏
武邑氏:もし1つしか選択肢が与えられなくて、それが自身にとって本質的な不利益になるときは訴えることができます。たとえば「会社はSlackを使いなさいというんだけど、私は使いたくない」という時、EUでは「使わない権利」を行使できます。

坂井氏:「使わない」というのも選択肢で、それで二択にして、自由を確保することに力を注いでいる……。

武邑氏:利便性を少しでも感じたとか、あるいは何らかの理由によって自分が同意し選択したのなら、それは基本、自己責任だということです。ただ、それが身体的、精神的苦痛に迫ってくるようなものであればあえて選択する義務はありません。

 近年「脱プライバシー」が盛んに議論されていますが、プライバシーを開示することによって社会の透明性を高めることこそが重要だという潮流です。現状ではまだ多くの抵抗がありますが、プライバシー保護か「プライバシーの死」を選択するのも個人なのです。

「マネーロンダリングへの監視を強めよ」と迫られる日本

林氏:金融業界でも監視が厳しくなっています。GDPRほど一般的とは言えないトレンドですが、1つ、金融業界のデータ管理のトピックをご紹介します。この10月、FATF(Financial Action Task Force on Money Laundering:ファトフ)という、マネーロンダリング(資金洗浄)を世界から撲滅することを目的とした審査団が日本に来ます。

 FATFは1989年、アルシュ(フランス)サミットが行われたときに、先進国の首脳たちが集まって、マネーロンダリングを世界から撲滅しようという合意が得られたことで始まりました。

 それ以降、各関係当局から任命された人たちが審査団を組んで、順番に先進諸国を中心とした国を回って「あなたの国のアンチ・マネーロンダリングに対する意識とか制度とか執行はうまくいっていますか」と尋ねて回るようになったのですね。

 2001年9月、アメリカで起こった同時多発を受けて機能が1つ加わりました。テロ資金撲滅の流れが強くなり、審査団が回って来たときに対応できていない国は、国際的な決済ネットワークから除外することが決まったのです。

 2008年ぐらいにFATFが来たとき、日本はあまり点数がよくなく、不合格に近かった。10年ぐらい経った今、またそういうことになると、日本は犯罪資金やテロ資金に対して非常に行儀が悪い国というレッテルを張られて、日本の金融機関が国際的な決済ネットワークから出ていけと言われかねない状況です。

若林氏:そうなんですね。今まで除外された国というのはあるのですか?

【次ページ】自由vs監視による安全・便利、どちらの方が人々は幸せか
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