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  • 2019/09/04 掲載

慶大 坂井豊貴教授:なぜビットコインに魅せられるのか? ガチホ勢が考えていること

FinTech Journal創刊記念インタビュー

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その経済学者は、最初は野口悠紀雄氏との出会いによって、また制度設計を研究する立場から、ビットコインの深みに引き寄せられていった─。『多数決を疑う』『暗号通貨VS.国家 ビットコインは終わらない』など数々の著作を持ち、自らもフルノードとしてビットコインの稼働に携わり、実際に売買も行いながら、ガチホ(ガチホルダー)勢として動向を追いかけ続ける慶應義塾大学 経済学部 教授 坂井豊貴氏。同氏にビットコインという暗号通貨の“本当の凄さ”について話を聞いた。
聞き手:編集部 松尾慎司、構成:吉田育代

聞き手:編集部 松尾慎司、構成:吉田育代

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慶應義塾大学 経済学部 教授 坂井豊貴氏

サトシ・ナカモトの論文の“美しさ”

 私が最初にビットコインに対して興味を持ったのは、野口悠紀雄教授がきっかけです。2017年にNHK教育の番組(2018年にオンエア「欲望の経済史」)で共演させていただいたことがあって、そのとき野口教授がずいぶん熱っぽくビットコインについて語られたんです。

 それは経済史の番組でビットコインについてそれほど多くの時間は割けず、実際そこの部分はオンエアされなかったんですが、教授は熱弁をふるわれた。それまでビットコインにそれほど関心はなかったんですが、話を聞いていると、これは決して変なものではなく、裏に深い思想性があるものだということがひしひしと伝わってきました。

 野口教授の、人間の自由を強く尊重する心がビットコインへ関心を持たせていると感じたのです。天下の野口悠紀雄にこれほどまで興味を持たせるビットコインは一体どういうものなのか。それが私にビットコインへの興味を持たせたそもそもの始まりでした。

 読んだ最初の文献は、サトシ・ナカモトの論文です。それを見て私はびっくりしました。彼の論文は非常にきれいに書かれているんです。あれは間違いなく一流の学者が書いたものです。正体不明だといわれていますが、おそらく博士号を持っていて、文章を書くことをそれなりに生業にしてきた人だと思いました。

 ビットコインの仕組みの中には「Proof of Work(プルーフ・オブ・ワーク)」というものがあります。あれはある意味で、多数決で正しい帳簿を決める仕組みです。

 ブロックチェーンというのは、一言でいうと帳簿です。一続きの帳簿なんですが、途中でたまに枝分かれをする。それは大変よろしくない。というのは、二重帳簿になってしまうからです。どちらか一方に収束させなければいけません。それではどちらを選ぶか。長く延びた方を正しい帳簿とするというのがビットコインの鉄則です。

 これがプルーフ・オブ・ワークというもので、長く延ばすためには、多くの人が労力を注がねばなりません。そういう一労力一票という──コンピュータを使うので正確には1CPU-1voteですが──多数決の仕組みになっているんですね。


ビットコインのメカニズムデザイン

 私の専門はゲーム理論を用いた制度設計で、メカニズムデザインといいます。選挙や市場の優れた仕組みをデザインする、といったことをします。その私の目から見ると、ビットコインの仕組みというのはメカニズムデザインの知識が使われているものだったのです。

 ビットコインは管理者がいません。正確には、中央集権的な特定の管理者がいないということになります。不特定多数で仕組みの管理はしていて、みんなで自律運営させています。そこにはそれぞれにインセンティブがあって、それに基づいてみんなで動かしています。

 これは、見方を変えるとビットコインの仕組みが人々を動かしているともいえるんですよね。人間たちにビットコインを動かすように行動させているというのがサトシ・ナカモトのデザインです。これはコンピュータ・プログラムの仕業ですが、私にはそれが“制度”に見えます。

 制度のもとで、人々は各人が好きなように行動していて、その結果、ビットコインが自律運営されている。これはある意味、私の研究のど真ん中を射抜くものだったのです。

 魅せられました。魅せられたし、自分が関わるべきものだと思いました。当時、少なくとも日本では、私以外の経済学者はこういう風に思っていなかったと思います。世界でもごく少数。“何か怪しい、実体のない通貨” “新しい投資の対象”というのがビットコインの大体の風評で、制度設計に関する学問の対象であるという見方は、2017年の時点ではなかったと思います。

ビットコインのシステムは一つの生き物

 どうして私はそこまでビットコインに魅せられたのか。この暗号通貨の凄いところはたくさんあります。たくさんあるのですが、まず1つ目は、分散システムとしてよくできているという点があります。これは経済学というよりはテクノロジーの側面が大きいのですが。

 ビットコインは分散システムとして運営されており、この全容を把握している人はいません。たとえば、私は自分のPCにBitcoin Coreをインストールしてフルノード(すべてのブロックとトランザクションをダウンロードして検証するマシン)を稼働させているのですが、私がそうしていることは他の人は知らないし、ノードが全体で何人いるのかはわかりません。

 またマイナー(ビットコインのブロックを生成して採掘報酬を得ること)も、世界に何人いるのかはわかりません。しかし、みんなが自由に関わることで、ビットコインの仕組みはまるで一つの生き物のように動いているのです。

 実際の生物の世界では、分散システムはすでに存在するんですよ。たとえば、渡り鳥の群れ。渡り鳥の群れにはリーダーがいません。また、それぞれの渡り鳥は集団に誰がいるか全体を把握してるわけではないのです。しかし、全体としては一つの生き物のように動いている。不思議な現象で、なぜあれがうまくいくのか、原理の全容は解明されていません。生物は神様の設計ですからね。しかし、そのような仕組みを人間が作って、成功した。これは非常に画期的なことというか、神業だと思っています。

 それでは、なぜ人々はビットコインに関わるのか。これが凄いところの2つ目に関係するんですが、この暗号通貨が基本的に自由主義の思想を持っていて、それに共鳴しているという点があると思います。

【次ページ】お金は物理的な実体がなくてもいいし、発行するのは誰でもいい
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