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  • 2024/07/09 掲載

インフレの「被害者」は誰か? 食料だけじゃない「若者苦境」の原因

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日本の消費者が直面する物価高(インフレ)。世界的にもインフレに直面しており、日本で750円程度のバーガーセットは米国では2,500円もする。2023年ごろより米国のインフレは落ち着きつつあるが、今なお多くの消費者は外食を控え、支出を抑制しようとしている。それでもスーパーの食料も価格が大きく上昇しているほか、住居費も高騰を続けており、特に若年層の家計行き詰まりを招いている。
執筆:細谷 元
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ニューヨークでオープンしたホールフードスーパーマーケットの様子(2024年4月3日)
(Photo:rblfmr / Shutterstock.com)

過去4年で25%上昇の食料物価、若年層の家計逼迫

 2022年のピーク時に比べると落ち着きを見せる米国のインフレだが、消費者が実感できる水準には至っていない。特に収入が安定しない若年層への影響は依然無視できない状況だ。

 CNBCとGeneration Labが実施した5月の調査では、若年層にどのような影響が出ているのか、その一端が明らかになった。同調査でインフレの影響が予算のどの部分で最も大きいかを尋ねたところ、54%が食費を選択し、他の選択肢を大きく引き離したことが分かった。2位の家賃(22%)、3位の裁量支出(10%)を大きく上回る結果となっている。

 調査対象は18歳から34歳までの1033人で、いわゆるZ世代とミレニアル世代と呼ばれる層が中心。これらの世代は一般的に収入が低く、食費などの生活必需品が家計に占める割合が大きい。

 米国のインフレ率は、2022年6月に前年同月比9.1%でピークを迎えた後、2024年3月時点では3.5%まで低下した。しかし、食料品価格は過去4年間で25%増加、CPI(消費者物価指数)が対象とする全品目の平均である21%を超えた。

 一部では賃金上昇率がインフレ率を上回るようになり、家計行き詰まり状況も緩和に向かいつつあるが、過去数年高騰を続けてきた食料品価格に対して、賃金のキャッチアップには時間がかかると見込まれる。

 過去何度か米国では深刻なインフレが起こったが、その際は、外食を控えることで食費を節約することができた。しかし、現在は食料品の高騰により、外食を控えてもコストを抑えることが困難となっている。上記の調査結果はこうした状況を反映したものといえるだろう。

 ちなみにUSA Today(2024年5月31日)が報じたところでは、シアトルではビッグマックコンボの価格が15ドル(約2,300円)ほどまで上昇したという。

 米国農務省が発表した2024年1月の「Monthly Cost of Food Report」では、栄養価の高い食事を自宅で用意するために必要な食料品の月間予算が、年齢層や性別ごとに示されている。最も経済的な「Thrifty plan」から、最も豪華な「Liberal plan」まで4段階に分けられている。

 成人男性の月間平均食費はThrifty planで275.63ドル、Liberal planで434.33ドル、成人女性の平均はThrifty planで238.46ドル、Liberal planで384.93ドル。成人男性と成人女性で構成される世帯では、月間514~820ドルほどが食費の目安となる。1日あたり27ドル、1食あたりでは9ドルに換算される。

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日米の生活費にはどれほどの差があるのか? 写真は2024年4月の東京のスーパーマーケット
(Photo:Nedikusnedi / Shutterstock.com)

米国は「粘着性」を持つインフレに直面

 米国のインフレがこの数年どのように推移してきたのか俯瞰してみたい。

 インフレ率がピークに達した2022年に関しては、たとえば6月のデータを見ると、ガソリン価格は前年同月比で59.9%増加、このほか電気料金13.7%、食料品12.2%、新車11.4%、外食7.7%、中古車7.1%、住宅5.6%、衣料品5.2%といった具合に、ほぼすべての品目で軒並み大幅な価格上昇が起きていた。多くのエコノミストの予想を上回る物価上昇が起きており、6月のCPIは前年同月比9.1%に達した。

 こうした厳しい状況の中で、賃金上昇率がインフレ率を上回るようになったのは2023年5月以降のこと。それ以前の2年間は、インフレ率が賃金上昇率を上回る逆転現象が続いており、実質賃金は目減りする一方だった。専門家らの見立てでは、賃金はまだインフレに追いつく余地があり、長期的に見れば賃金上昇の勢いはまだ十分ではないという。

 2024年1月の時間当たり賃金は前月比0.6%、前年同月比4.5%増加し、ここ数カ月はインフレ率を上回るペースで推移している。雇用の拡大が続き、労働市場は引き締まった状態にあることから、一部の業種では労働者に優位との見方もある。ただし、1月の賃金上昇率の高さには、労働時間の減少が影響している可能性があり、必ずしも賃上げが本格化したとは言えない面もある。

 Axiosが伝えたZipRecruiterのデータによれば、求人情報に記載されている賃金は過去1年で大幅に低下しており、賃金上昇にブレーキがかかり始めている兆しもうかがえる。ZipRecruiterのエコノミストは、賃金がインフレを上回るペースで伸びているのは良いことだが、エコノミストの間では、今後数カ月で賃金上昇率が少し落ち着くとの見方が多いと指摘している。

 2024年5月のデータを見ると、全カテゴリのインフレ率は3.3%、価格変動の激しい食料とエネルギーを除外したコアインフレ率は3.4%だった。食料のインフレ率は2.1%。自炊用食料価格は全体で1%増に抑制された。特に、乳製品(マイナス1%)、シリアル(0.7%増)、フルーツ・野菜(0.6%)などの価格が落ち着き始めていることが示されている。ただし、肉類・魚・卵が2.4%増加、また外食価格も4%増を記録しており、家計圧迫の要因となっている。

 2023年以降はインフレ率の鈍化と賃金上昇率の加速により、徐々にではあるがバランスの取れた状態に近づきつつある。しかし、物価上昇圧力は「粘着性」を持っており、特に生活必需品である食料品の価格高騰は今なお家計の重荷となっている。賃金面でも本格的な改善とは言い切れず、インフレとの綱引きは今しばらく続きそうだ。 【次ページ】日本と米国での生活コスト、実は日本のほうが高いタクシー

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