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急激な人口減少によって、新築住宅の販売不振や空き家問題が取りざたされる中、首都圏では逆に住宅不足が懸念される状況となっている。人口が減っているにもかかわらず、住宅が足りないというのはどういうことだろうか。
人口減少には人口の移動が伴う
国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」によると、50年後の総人口は現在との比較で3割減の8700万人になる見通しだ。人口が3割も減れば、それにともなって国内市場も大幅に縮小することが予想され、住宅についても大量の物件が余剰となる。
すでにその予兆はあちこちで観察されており、空き家となって放置された家が急増。周辺環境に悪影響を与える事例が続出しており、国土交通省は対策に追われている。
人口が減って住宅が余るのであれば、そのクオリティは別問題として、住む場所には困らないという一般論的な予想が成り立つ。だが首都圏などを中心とした大都市圏では、その単純なシナリオが成立しない可能性が高まっている。人口が減少しているにもかかわらず、住む場所を確保できないという住宅難民が今後、大量発生する可能性が取り沙汰されているからだ。
ではなぜ人口が減っているにもかかわらず、住宅が不足するのだろうか。そこには2つの大きな要因が絡んでいる。
ひとつは人の移動である。人口が減っていく社会では、各地域の人口比率が変わらないまま、総人口が減少するわけではない。人口減少には、ほぼ100%、人の移動が伴うことが知られており、都市部への人口流入が予想される。人口が減っていくと、商圏を維持できない地域が増加し、当該地域からはスーパーやコンビニを中心に小売店が次々に撤退していく。そうなると生活が不便になるため、結婚や出産、就学などのタイミングでより利便性の高い地域に転居する人が増え、都市部への移動が増えてしまうのだ。
テレビ番組では、都会の生活を捨て田舎暮らしを始めた人や、リモートワークを活用して二拠点生活を実践している人が紹介されている。だがこうした理想的な生活を実現できる人は、ごくわずかというのが現実である。
もともと地方には仕事が少なく、あっても給与水準は低い。こうした地域に外部からやってきて相応の職に就いたり、事業をスタートできるのは、相当な力量の持ち主であり、ある種のエリート層と言える。リモートワークも同じで、多くのビジネスパーソンにとって、どこで働くのかを自身で決めることは難しい。ごく普通の国民にとって、仕事の有無が住む場所を決める重要なポイントであり、どうしても都市部に軍配が上がってしまう。
この動きを逆転させるには、政府が莫大な補助を地方に行う必要があるが、今の日本政府には万難を排してそうした所得移転を実施する覚悟は見当たらない。厳しい言い方になるが、人口減少と都市部への人口集約はセットになると考えた方が良いだろう。
マンション価格のニューノーマルとは?
都市部には多くのマンションが建設されているので、地方から都市部に人が移動しても、総人口が減っていくのであれば住宅難民は発生しないように思える。だが首都圏を中心にやっかいな問題が起こっており、住宅の供給に制限がかかる可能性が指摘されている。背景となっているのがインフレに伴う不動産価格の高騰である。
不動産経済研究所によると、2023年の首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)における新築マンション平均販売価格は8,101万円となった。3年連続で過去最高値を更新しており、昨年との比較では29%もの上昇である。都内では億超えが当然視されている状況であり、もはやこの価格帯になると平均的なサラリーマンでは到底、手が出ない。
ネットを閲覧すると、一連の価格上昇は中国人投資家が価格を釣り上げているだけであり、いずれ下落するといった半ば陰謀論に近い話も流布しているが、当然のことながらそのような理由で価格が上がっているわけではない。
不動産価格が上昇しているのは、資材価格が高騰していることに加え、日本でも本格的なインフレが始まったことで、貨幣価値が下がっていることが主要因である。都市部のタワマンを買っているのは、ほとんどがギリギリでローンを組んだ共働きの夫婦であり、投機目的での購入などごくわずかだ。
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