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時価総額が3兆ドルを割るなど失速が浮き彫りになったアップル。こうした局面を打開しようと、クレジットカードのApple Cardや普通預金口座のApple Savingsといった金融事業への進出に注力している。新事業を成功させるため、ゴールドマンサックス(GS)と2029年までの期間で
提携し、これまで「二人三脚」で進めてきた。ところが、ここに来てパートナーのGSが撤退を望んでいるという。撤退後のアップルの金融事業はどう変化するのか、展開する金融サービスとともに、解説する。
GSが期待したアップル提携の「3つの期待」
アップルは、iPhone、iPad、MacBookといった自社のデバイスやアクセサリー、さらにはサブスクやアプリ内課金といったサービスを、加速度的に販売していくため、早くから金融事業に進出してきた。
2014年に非接触型デジタル決済システムのApple Payを立ち上げると同時に、英バークレー銀行を発行元とするポイント提携クレジットカード、Apple Cardを世に送り出した。アップルのデバイス購入者は、ライバルのアンドロイド利用者より裕福な層が多く、しかも一度アップルのエコシステムに取り込まれると、それを去らない人が多い。そうした背景もあって、利用者数は順調に拡大している。
そこに注目していたのが、ゴールドマンサックス(GS)だ。証券事業や投資事業という本業で行き詰まりを感じていた同行は、裕福で熱心なアップル信者に対して、消費者向け金融事業を展開すれば、貸し倒れリスクを抑えられる上に多大な額の収益を得られると踏んだのだ。
GSはアップルと交渉し、2019年にApple Cardの提携先を自行に変更してもらうことに成功。これは、GSが2016年に立ち上げた個人消費者向け銀行サービスの「マーカス」の延長上にあり、Apple Cardのために築いたインフラを自社の個人消費者向け事業に
流用する意図もあったとされる。
GSがアップルとの提携に期待したのは、(1)無店舗融資サービスで顧客対応コストを抑えること、(2)アップルの顧客ベースを基にカード利用売上・融資から得られる収益を増大させること、(3)ライバル行から顧客を奪うこと、であった。
アップル躍進の裏に「潜んでいた大誤算」
だが、そこには大きな誤算が潜んでいた。消費者向けサービスではすでにライバル行が信用スコアの高い優良顧客を囲い込んでおり、後発のGSは信用審査や決済承認を甘くしてまで新規顧客を獲得しようとした。そのため、Apple Cardは
信用度が比較的低い人にも発行されるようになった。
その結果、2022年初頭にはApple Card保有者数が
670万人にまで拡大した。だが、カード発行元のGSがアップルデバイス購入のために組成したローンの多くが焦げ付き、Apple Card関連の損失が
10億ドル(約1,420億円)にも膨れ上がった。また、同行の消費者向け金融の損失は2020年1月から2022年9月の間に
30億ドル(約4,260億円)に達した。
Apple Cardのおかげもあってデバイスが大いに売れたアップルが売上や収益の記録を更新していく一方で、裏方のGSは大損する羽目になった。一般消費者向けの個人信用審査をよく理解していない投資銀行が、派手にやらかしたわけだ。
そのような状況にあってもGSは、アップルとの提携が2029年まで残っていることから、年率4.15%と高利息の「アップル預金口座」を、2023年4月に立ち上げた。アップル経済圏内での消費を喚起する狙いだが、立ち上げてから3カ月で預金総額が100億ドル(約1.4兆円)を突破しており、この面では「失地の一部回復」につながる可能性がある。
だが、そうした部分的成功にもかかわらず、GSはマーカスに代表される消費者向け金融事業そのものから撤退する基本方針を決定した、と伝えられる。株主など投資家からの突き上げもあり、アップルとの提携解消も交渉中で、多額の違約金を支払っても損失を抑えたい意向だとされる。
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