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住宅ローンへの取り組みを見直し、投入資源を縮小させようとする動きが出ているが、その背景にある環境の変化とデジタル化への取り組みを整理するとともに、新しい事業展開の可能性について考えていきたい。
メガバンクの方向転換
みずほ銀行は、人手をかけて住宅ローンの規模拡大を目指す戦略を見直すことが
報じられている。人員をより成長が見込める資産運用のアドバイザーなどに振り向けて、収益力の強化を目指す方針とのことである。
同行の住宅ローン残高は2015年3月に10兆円超だったが、2022年9月時点で7兆7,000億円まで減少していた模様である。今回の見直しによって新規の貸し出しはさらに減り、住宅ローン事業は縮小することが見込まれる。
こうした動きは、みずほ銀行のおかれた固有の経営課題に主因とする面もあるが、住宅ローンの成熟した商品性に起因していることも見逃すことはできない。
住宅ローンの変質
かつては、個人向け金融サービスにおいて花形商品と考えられていた住宅ローンは、最近では既存金融機関、特に店舗ネットワークを販売の中心とする銀行にとって取り扱いに悩む商品となりつつある。
古き良き時代の住宅ローンは、「リテール金融の花形商品」として扱われていた。その理由は(1)長期的に安定した収益、(2)高いマージン確保が可能で、(3)給与振込や公共料金振替による「メインバンク化」が住宅ローンの獲得に直結し、その後の資産運用などの長期的な関係構築にも役立ち、(4)土地価格が上昇傾向にあったため、担保価値に依存した貸出が増加するという特徴にある。
一方、最近の住宅ローンは「リテール分野のお荷物的存在」である。その理由は(1)低金利で採算確保が困難、(2)競争激化によりマージンが低下、(3)借り換えも多く、資産構成上も不安定な要素に、(4)利用者もメインバンクで借りるとは限らず、ショッピングが一般化していることなどが挙げられる。
ネット銀行の参入
競争が激化した原因の1つは、以下に挙げるような店舗を持たないネット銀行が低コストオペレーションの優位性を生かした低金利で住宅ローンに参入し、貸出実績を積み上げてきたことにある。
ソニー銀行
ネット銀行では住宅ローン開拓のパイオニアで、手続きデジタル化とともにコールセンターでの専門人材の対応で安心感を醸成、2022年には累計実行額が4兆円を超えている。
auじぶん銀行
従来の銀行からは、「無理」であろうと言われていたモバイルチャネルでの住宅ローン販売に挑戦して、実績をあげている。申込に必要な入力負荷を下げ、対面での住宅ローン相談会を実施するなど、顧客が安心感を得られる工夫をしている。低金利に加えて、auの各種サービスとの連携によって認知度を上げ、2022年には累計実行額が2兆円を超えた。
住信SBIネット銀行
ネット証券との連携もあってネット銀行最大の資産規模を誇る同行は、低金利を武器に残高を順調に積み上げており、2022年には累計実行額が8兆円を超えている。
こうしたネット銀行は、住宅ローンの比較サイトにおいても上位の人気を得ており、既存金融機関との競争激化につながっている。
比較サイトの拡充
インターネットによる情報入手ができるようになる以前は、住宅販売業者の紹介で提携金融機関の住宅ローンを利用するか、給料振込先の銀行で借りることが多く、金利条件も言われるがままであった。
しかし現在では
価格.com、
住宅本舗、
住宅ローン比較窓口などのサイトにおいて、利用者が条件を比較して選択できるようになっている。さらに、単なる金利の比較だけではなく、さまざまなプロセスに対応したシミュレーション機能も提供されるようになっていることから、利用者の選択肢は広がるようになっている。
特に、今後は日銀の金融政策の転換による金利上昇がいつ始まるのかということが注目されており、条件比較やシミュレーション機能に対するニーズが高まることが予想される。
【次ページ】「最適ローン提案」が可能なフィンテックと、住宅ローンをめぐるDX
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