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  • 2023/06/30 掲載

政治マーケティングとは?資金規模40億ドルの「米大統領選」で重視される4つのプロセス

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米国の選挙と政治は、巨大なマーケティングプロジェクトだ。中でも大統領選挙は、資金規模40億ドル(2020年全候補計)、超一流戦略家の指揮のもと、ビジネスマーケティングに先行するほど最新の技術を競い合う。実際2008年オバマ選挙の際に使われた手法は、アップルなどを抑えて、Marketer of the Yearに選ばれたほどだ。バイデン氏とトランプ氏との対決が予想される、2024年米国大統領選挙まで1年半。米国の選挙と政治と切っても切り離せない「政治マーケティング」とは何か。その歴史や具体的なプロセスについてわかりやすく解説する。
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2024年米国大統領選挙をマーケティング視点から読み解く
(Photo/Shutterstock.com)

米国の政治にマーケティングが必要不可欠である理由

 米国の政治には、マーケティングが欠かせない。大統領選挙と政権運営にそれが組織的に使われるのは30年前、1992年大統領選挙の民主党候補クリントン以降である。それ以前にも世論調査やメディア戦略の専門技能は使われていたが、クリントンの世論調査家グリーンバーグ以降はマーケターが選挙陣営や大統領府の意思決定の統括的役割を占めるようになった。以後、G・W・ブッシュの「頭脳」と呼ばれたローブ、オバマの戦略広報担当アクセルロッド、トランプ2016年選対部長のデータ分析専門家コンウェイと続く。

 政治は競争であり経営であると考える米国では、状況分析や市場情報の収集から、コンセプト作り、「大統領」プロダクトの開発、戦略広報まで一貫した戦略をたてるマーケターの存在意義は大きい。ヒト・カネ・票を効率的に集め、40億ドル規模(2020年大統領選で全候補陣営が集めた総資金額)の膨大な資源を適正に配分して最大効果を目指す指南役だからだ。

 政治マーケティングのプロダクトは、モノではなく「問題解決策」であり、究極的には「公益」という社会的大義である。マーケティングの第一人者フィリップ・コトラーのいう新潮流「マーケティング3.0」の典型でもある。しかし購入へのハードルは高い。買い手の選択は1回限り、返品なし、公約という「約束」の信用取引だからだ。

 選挙マーケティングが終わり大統領になれば、今度は支持者だけでなく全国民の利益のために「公約」の改造を迫られ、利害対立するステークホルダーと全米有権者市場を説得せねばならない。政治のマーケティングとは、情報収集と対話を通じて市場のホンネ、「ハートとマインド(感情と論理)」を探り出し、そこに訴求するプロダクトを開発し、対話と交渉取引を通じて絆と信頼を築く一連のプロセスである(図1)。

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図1 政治マーケティングの基本フロー
(出典:筆者作成)

 次に、このプロセスを具体的にみていこう。

【第1段階】競争環境と市場の情報収集

 第1段階は、競争環境と市場の情報収集である。敵を知り、己を知り、競争の前提条件を知り、標的の市場を知る。情報を制するマーケターこそ、競争の命運握る意思決定の要なのだ。

 競争環境分析ツールに、ハーバードビジネススクールが開発した「SWOT分析」がある。ライバルと自分の競争力を資金や経歴、知名度などで比較対照し、相対的な「強み・弱み」を明確化する。景気や世情など外的な条件も、どちらの側に有利不利に働くかを査定する。自らの価値はライバルとの相対評価で決まる。その冷徹な査定を通じて、自分を生かす差別化のポイント、勝てる対立軸が何かがわかる。オバマ2008年の勝因はここにあった。

 市場の情報源は三種類、献金者リストなどの支持者ファイル、世論調査、ビッグデータである。二大政党や有力候補は、これらの情報を整合させた独自のデータベースをもち、選挙運動の全場面で活用する。大統領就任直後から4年後の再選運動が始まるので、選挙と統治は同時進行する。大統領府でも同じように情報収集を継続するが、調査予算は選挙時より、1桁は上がる。

 米国の政治家が市場の意向に敏感な理由は、日本と違って選挙資金の公費扶助がなく、自分で献金を集めるからだ。民意に沿わない候補は、資金も票も来ない。米国政治は、毎日が全米株主総会のようなものだ。大統領も支持率が低迷すれば、予算権限をもつ下院の議員が、隔年全改選の下院の選挙に悪影響が及ぶのを恐れ、政権にそっぽを向く。そうなれば公約の実現、まして新たな議題への挑戦は不可能だ。

【第2段階】プロダクト作りの前提となるターゲティングとポジショニング

 第2段階は、プロダクト作りの前提となるターゲティングとポジショニングである。

 米国の二大政党の支持層の多くは人口統計学的に識別可能(たとえば黒人は民主党支持)なので、支持の変化や強弱によって説得と動員の優先順位を決める。問題は、有権者の3分の1を占める無党派層(典型は大都市郊外の中上流階層の既婚者)だ。

 1票差でも多い方が勝つ「勝者全取り型」の選挙制度の米国では、無党派層を動かす「風頼み」の日本と違い、彼らの徹底的プロファイリングをもとにハートとマインドを狙い撃ち、最後の1人まで奪い合う。中でも激戦州の選挙最終盤に投票先が未定の層は、全有権者のわずか5%程度。ビッグデータで彼らに共通の「政治的DNA」(細分化された特定の価値観や行動特性)を識別し、これらマイクロターゲットごとにピンポイントに訴求する。このメッセージングに、残りの全資源が集中投入される。

 一方「風読み」として、「この選挙は何を問うか」という対立軸の設定が、無党派層を含む対市場戦略として重要だ。世論調査結果から投票や支持の決め手となる軸をあぶり出す。たとえば「望む変化の大小」と「期待する指導力の大小」の2軸で有権者を4分類し、うちライバルと差別化でき、しかも最多の有権者数が含まれる象限が、ベストな立ち位置となる。 【次ページ】【第3段階】コンセプト/問題解決策(政策)/解決者の資質実績/到達目標(ビジョン)の総合パッケージ作り
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