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フィンテックをめぐる各方面の重要人物が参加することで定評のある英国のイベント「イノベートファイナンスグローバルサミット(IFGS)」において、Brexit以降は英国金融業界の地盤沈下が心配される中で、フィンテック領域にはまだまだ世界の投資や人材が集まっていることを実感することができた。また、金融当局の積極的な参加もあり、エコシステムをさらに推進していこうとするエネルギーを目の当たりにするにつけ、フィンテックの世界市場において日本の果たすべき役割についてあらためて考えさせられた。
イノベートファイナンスグローバルサミット(IFGS)とは?
9年連続となるイノベートファイナンスグローバルサミット(Innovate Finance Global Summit=IFGS)は、UK FinTech Week 2023のメインイベントとして2023年4月17~18日に開催された。50カ国以上から1500人以上がロンドン市内の歴史あるギルドホールに集まり、現在の投資環境、成功するパートナーシップ、お金の未来、フィンテックが金融包摂や金融ウェルネスに日々与える影響など、フィンテックの最新の話題について取り上げられた。
イノベートファイナンスは、英国のフィンテック推進の中心的な役割を果たしてきた独立した業界団体で、国際金融都市としてロンドン市のサポートを受け、金融当局とのコミュニケーションも積極的に取ってきた。IFGSは、ロンドンのフィンテックエコシステムのステークホルダーである金融当局、スタートアップ、金融機関、ベンチャーキャピタル、学術機関、コンサルティングが参加するイベントとして定評がある。
金融業に力を入れている英国政府の支援もあり、開催週はUK FinTech Weekとして、各業界団体のセミナー、政府機関や各都市の説明会など多くの関連イベントが開催された。今回は「Impact」がテーマとして設定され、コロナ後の社会や経済、生活に及ぼすフィンテックの影響について議論が展開された。
イベントの冒頭で、イノベートファイナンスのCEOであるジャニン・ハート(Janine Hirt)は、過去1年間の世界経済、政治、市場の混乱を認識した上で、2022年に英国のフィンテックエコシステムに125億ドル以上が投資され、米国に次ぐ世界第2位、次の欧州13カ国を上回るというポジティブな要素を強調し、英国が世界のフィンテック市場シェアの10%を誇っている点を強調した。
フィンテック企業とチャレンジャーバンクは現在、中小企業向け融資市場の55%以上を占めており、英国では成人の10人中8人が少なくとも1つのフィンテックツールを定期的に使用しているなど、存在感は着実に大きくなっている、という。
ここからは、
2日間にわたるセッション の主なものを分類して、重要な発言を紹介していきたい。
金融当局・公的団体からの発表
・金融サービスは政策の中心(Financial services are at the heart of governmental efforts)
財務省 の経済長官(Economic secretary to the Treasury)の
アンドリュー・グリフィス(Andrew Griffith) 議員が基調講演を行い、シリコンバレーバンク(SVB)の売却や人工知能(AI)などに言及した。
「ここ数十年で初めて自分たちのルールを作ることができるようになった今、成長、リスクテイク、富の創造を優先し、前進する道を切り開くことの重要性を強調させてください。金融サービスがこうした取り組みの中心にあること──。これほど重要なことはありません」
「英国のフィンテックを支援するという金融当局自身のコミットメントは、先月、イングランド銀行と協力してSVBのHSBCへの売却を促進するために取った行動に反映されています。私は、多くの皆さんが英国におけるSVBの崩壊に直接影響を受けたことを理解していました。私たちが断固として行動し、皆さんの資本を保護し、その期間中銀行サービスの継続を維持できたことを嬉しく思っています」
「AIは、企業が不正な取引を特定し、防止するのに役立ち、疑わしいパターンをリアルタイムで検出することができます」
・FCA Digital Front Door(FCAのデジタル玄関)
金融行動監視機構(Financial Conduct Authority=FCA) のチーフデータ・インフォメーション・インテリジェンスオフィサー(Chief Data, Information and Intelligence Officer)である
ジェシカ・ルス(Jessica Rusu) は、FCAが世界に先駆けて、決済、銀行、投資、フィンテック業界全体からの合成データ、取引データ、市場データを組み合わせた常設の
デジタル・サンドボックス を設立することを明らかにした(全部で200以上のデータセットが照合できる)。
「今夏より、FCAデジタル・サンドボックスは、より幅広い投資家をサポートするために拡大します。APP詐欺、グリーンウォッシング、詐欺の検出といった複雑な規制上の課題に対するソリューションを促進し、イノベーションをサポートすることで利益を得ています。私たちが技術やイノベーションに投資する主な理由の1つは、より良いサポートを提供し、規制するためです。FCAのデジタルトランスフォーメーションプログラムは、効率化を推進し、企業の規制負担を軽減することに重点を置いています」
これまでも規制適用が明確でないような新しい取組みを対象として、実験を行うためのサンドボックスプログラムを提供してきているが、誰もがアクセスできるシステムインフラを提供することによって、実環境で検証ができるようにした点は画期的である。
・CFITとの対話(CFIT Fireside Chat)
英国におけるフィンテック分野における優位性をいかに維持・発展させていくかを論じた
カリファ報告(Kalifa Review、2021年発表) に基づいて設立された
金融・イノベーション・テクノジ―研究所(Centre for Finance, Innovation and Technology=CFIT) のCEOに就任予定であるエゼチ・ブリトン(Ezechi Britton)氏は、政府が支援する組織の目的とともに、エコシステムに呼びかけた。
「私たちは、財務省から500万ポンドの支援を受けています。財務省から500万ポンドの支援を受け、ロンドン市からも50万ポンドが提供され、金融セクターが直面するスケールの拡大や障壁の解消に向けた最大の問題を解決する連合を試験的に立ち上げています」
「今、重要なのは、エコシステムを動かすことです。私たちが一番大切にしているのは、準備は終わったから、次は動かそう、もっと行動を起こそうということです。今後数カ月間、特に地域団体や業界団体と協力して、核となる問題を理解し、その本質がどうあるべきかを特定するために、一緒に取り組んでいきます。そこで、私たちは、データ、サービス、時間を提供し、業界団体や地域団体と関わりたいと考えている皆さんに、ぜひ協力していただきたいと考えています」
・デジタル認証の重視(Focus on Digital Identities)
技術・デジタル経済担当大臣である
ポール・スカリー(Paul Scully) 議員の講演においては、ロンドンだけでなく英国内のフィンテックを成功させるために必要なポイントに焦点をあてた。
「フィンテックの成長を最大化するためには、信頼できるデジタルIDを英国全土で広く使用できるようにすることが不可欠です。デジタルIDの普及により、英国経済全体で年間8億ポンドもの節約を実現できると推定されています。我々はすでにデジタルIDの導入を促進する上で素晴らしい進歩を遂げつつあり、この分野への継続的な貢献により、さらなる成長を遂げることができます」
【次ページ】スタートアップのCEOによる発言
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