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  • 2025/02/10 掲載

マッキンゼーも「爆増」予想の宇宙市場、イーロン・マスクと対決避けるインドの戦略

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2023年に6,300億ドル(約96兆円)規模だった世界の宇宙産業は、2035年には1兆8,000億ドル(約274兆円)に達する見通しだ。こうした中、インドが独自の戦略を打ち出し注目を集めている。イーロン・マスク率いるスペースXなどの大手企業と正面から競合するのではなく、データ処理と小型衛星の製造/打ち上げに特化するというもの。インド最大の民間防衛機器メーカーL&Tは、インド宇宙研究機関(ISRO)との協力関係を生かし、宇宙開発事業をさらに拡大する計画だ。また米企業がインドのロケットを活用した宇宙ステーション建設に関心を示すなど、新たな展開も見られる。インドの宇宙産業をめぐる最新動向を追ってみたい。
執筆:細谷 元  構成:ビジネス+IT編集部
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インドが狙うのはデータ処理と小型衛星の製造だ。写真はインド西ベンガル州で撮影されたダミーロケット
(Photo:Subhamay Acharyya / Shutterstock.com)

宇宙産業の成長加速、2035年に1兆8,000億ドル市場へ

 スペースXの新型ロケット技術に見られるように、宇宙開発分野における技術革新はこの数年で飛躍的な進歩を遂げている。特に再利用可能なロケットの実用化は、打ち上げコストの大幅削減につながると期待されており、宇宙関連の取り組みはさらに活発化する見込みだ。

 マッキンゼーによると、2023年に6,300億ドル規模だった世界の宇宙産業規模は、2035年に1兆8,000億ドルに達する見通しという。これは半導体産業(2021年時点で約6,000億ドル規模、2030年代にかけて年率6~8%の成長予測)を上回り、自動車産業の5兆ドルの約1/3に相当する規模となる。

 伸び率で見ると、宇宙産業は今後10年間、世界のGDP成長率の2倍のペースで拡大する見込みだ。この成長を牽引するのは、衛星通信、スマートフォンの位置情報・ナビゲーションサービス、AI/機械学習を活用したインサイトの需要拡大と見られている。

 PwCの調査でも、衛星データサービス市場は2020年の60億ドルから2030年には450億ドルまで急成長すると予測されている。数十年にわたり一部の公的機関/民間企業が独占してきた宇宙産業だが、インフラが成熟するにつれて新規参入の機会が広がっており、スタートアップの動きも活発化している。

 衛星データの活用領域としては、特に農業、物流、エネルギー分野が注目を集めており、各領域に特化した革新的なソリューション開発も進む見込みだ。衛星画像やリモートセンシングを活用した作物の健康状態モニタリング、収穫量予測、灌漑・施肥の改善、さらには資源探査、送電網の監視、エネルギー生産の効率化といった用途が期待されている。

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世界の宇宙産業規模予測
(出典:マッキンゼー)

インド、データ活用と小型衛星で宇宙市場に照準

 技術水準や投資規模から見ると、宇宙開発分野はこれまで、米国、EU、中国、ロシアが幅を利かせてきた領域となるが、新興プレーヤーの台頭が予想されており、競争の激化が見込まれる。マッキンゼーと世界経済フォーラムが注目するのは、日本、インド、サウジアラビア、ペルー、タイ、ウクライナの6カ国。この中でも宇宙開発の動きがとりわけ活発化しているのがインドだ。

 インドはスペースXなどの大手プレーヤーとの直接競合を避けつつ、宇宙産業における独自のポジション確立に乗り出している。同国が狙うのは、データ処理と小型衛星の製造・打ち上げだ。

 業界団体インド宇宙協会のAKバット事務局長はロイター通信の取材で、「衛星は旅客機サイズからノートPCサイズへと小型化が進んでいる。インドはデータマイニングと解析で歴史的なアドバンテージを持っており、イーロン・マスク氏が支配する大型打ち上げ市場に挑むのではなく、この分野で勝機を見出せる」と語っている。

 SkyQuestの調査によると、2022年に54億6,000万ドルだった小型衛星市場は、2023年には60億9,000万ドル、2031年には145億4,000万ドルに拡大する見込みという。年平均成長率(CAGR)は11.50%に達する。打ち上げコストの低減、衛星製造サービスへの需要増加、ペイロード容量の向上や小型化といった技術革新を背景に高成長が予想されている。

 明確な目標を持つインド政府は、その実現に向けて規制/制度改革を推進してきた。2024年2月には、衛星システムの製造に関して100%の外資出資を政府承認なしで認める制度改革を実施。打ち上げ事業に関しても規制を緩和した。さらに宇宙関連スタートアップを支援するため、100億ルピー(約1億1,900万ドル)のベンチャーファンド創設の取り組みも進めている。

 インドの宇宙産業は現在80億ドル規模で、世界市場の約2%を占めるに過ぎない。しかしインド政府は2033年までに440億ドル規模(世界市場の8%)まで拡大させる目標を掲げている。

 今後、数年間でインド宇宙研究機関(ISRO)の予算は20~30%増加する見込みだ。今年度予算は1,300億ルピー(約15億5,000万ドル)だが、さらなる拡充が見込まれるという。インド宇宙研究機関の長官は、同機関が開発したLVM3(打ち上げロケット)の打ち上げ価格は、スペースXと互角であると主張するなど、強気の姿勢を示している。

 規制緩和により民間企業の参入も相次いでいる。特に衛星データ関連スタートアップの動きが際立つ。国内の衛星データスタートアップGalaxEye Space SolutionsはIT大手Infosysからの出資を取り付け、また同業Pixxelは米航空宇宙局(NASA)と契約を締結、さらにSatSureはHDFCバンクやSyngentaを顧客として獲得した。一方、Dhruva Spaceは、これまでインド宇宙研究機関が独占してきた地上衛星通信センターの運営許可を取得した最初の民間企業の1つとなった。 【次ページ】インド民間防衛機器最大手も宇宙事業拡大へ
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