• 2024/10/21 掲載

石川県の町工場「職人が教えない職場」から大激変、「若手自ら考え仕事する」仕掛け(2/2)

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少量・多品種生産のノウハウ継承の課題を解決する方法

 この点、LIGHTzでは、ベテランのノウハウを「視点」「知識」の2軸で分解。汎知化によって、同じ業務カテゴリーで共通利用できるノウハウや視点をまず可視化する。これにより、上述したノウハウのバリエーションの多さに対応していく。

 ある企業の技術継承の支援事例では「約5000品番にわたる生産ノウハウを汎知化した結果、約30パターンにまで集約ができた」という。

 また、大手繊維メーカーの技術継承のケースでは、SDGsの達成に向け、染色工程の効率化が課題となっていた。特に、染色工程のレシピの作成がベテランに依存しており、レシピ作成ノウハウが高度化していた。レシピ修正回数は、ベテラン作業員と若手との間で大きな差が生じていたという。

 そこで、LIGHTzの汎知化とシステム化を適用することで、「若手も徐々にベテランに近づく修正回数のレベルに達し、人による生産性のバラツキが少なくなったことで生産性向上を実現することができた」そうだ。

 染色レシピは色を目で見て、五感に頼ったものである特性から、判断基準が定性化しやすく、汎知化しても若手に伝わりにくい。そこで、LIGHTzでは判断基準を新たな定量的な指標に置き換えることで若手にも伝えやすいようにした。

 雲宝氏は今後について、「人とソフトウェアがともに進化する技術継承DXをめざし、AI開発を進めている」とした。汎知化と生成AIを組み合わせることで、エンジニアの思考を支援する仕組みを開発している。

 雲宝氏は「我々はモノづくりのコア業務を担うエンジニアが深い技術相談ができるAIエンジニアをめざしている」とし、「社内データだけでなく暗黙知データを組み合わせ、暗黙知の形式知化していく領域に生成AIが果たす役割は大きいと考えている」と締めくくった。

石川県町工場の課題、若手に熟練が「教えない」本当の理由

 続いて、職人の技術継承の取り組みを紹介するのが石川県白山市の旭ウエルテックだ。同社について、代表取締役社長の山田 裕樹氏は「受託製造専門の町工場で、職人の技術を生かした工作機械などの溶接構造物の製造が主要事業だ」と説明する。

画像
旭ウエルテック
代表取締役社長
山田 裕樹氏

 同社は、取引先の拡大や売上拡大、社員数の増加に対応するため、自社専用システム「AWDS」を9年前から自社開発。同システムは顧客管理、受発注管理、不具合情報管理、など、多岐にわたる機能を備えた独自システムだ。

 同社が手がける溶接構造物は、産業工作機械などに強みを持ち、案件数は年間で約9000、数量で約2万個を製作している。「社内一貫生産体制のもと、1種類、1個の製品が多いのが特徴だ」と山田氏は述べる。

 そのため、多くの技術、ノウハウを持つ職人の存在が不可欠で、2020年以降、職人を積極採用し、職人の平均年齢は38歳、20代~40代が全体の80%以上を占める。さらに、急増した若手社員の早期技術力向上のため、石川県の職員派遣制度なども積極的に活用している。

 山田氏は「若手に基礎を学ぶ一定の体制はできたものの、技術継承には課題もある」と話す。それは「職人が教えない」問題だ。山田氏はその原因を「若手が難しいと思うことも、職人にとっては当たり前のことで、わざわざ教えるまでのものでもないとの意識を持っていた」ことにあるとする。

 しかし、製造に重要な技術は職人のノートにびっしりと書き込まれており、個人の机の中に収蔵されている。すなわち「ノウハウ、技術が個人に依存し社内に共有されていなかった」現状があったのだ。

 なぜ若手の育成に時間が取れないのか。山田氏は「1品ものの製造が多いというビジネス特性が育成のネックになっていた」とする。生産量や材料、生産工程は毎回異なり、限られた納期の中で計画を立てるのに、職人の多大な時間が取られ、「自分の仕事で手一杯のため、若手に教える余裕がない」というのが課題だったのだ。

「若手が自分で考える」環境に激変できたワケ

 そこで9年前から自社開発してきたのが、上述した自社専用システム「AWDS」だ。山田氏は、「職人が仕事に集中でき、次世代の職人を育てる時間を確保するためのシステムとして、試行錯誤を重ねて開発してきた」と話す。

 代表的な機能は、「受注管理システム」だ。生産計画や実績、製品が今どの工程にあるか、または協力先への依頼状況が画面に一覧され、オフィスから確認可能になっている。これにより、上長はもちろん、若手社員も残業の必要性や今後の作業の頑張りどきを自分で考えて仕事ができるようになった」と山田氏は話す。

 また「不具合情報管理」は、過去の不具合情報をデータベースで管理。リピート注文があった際に、履歴を自動抽出できる。職人にとって多くの製品が初めて、または久しぶりに取り組むため、不具合確率は高くなる傾向があるが、不具合情報を一元管理することで「同じ間違いを起こさずに、不具合を低減していく取り組みの第一歩として取り組んでいる」と説明した。

 不具合情報はボタン1つで自動集計できるため、部署ごと、工程ごとにどういった不具合が起こっており、どう対策していったら良いかを「若手社員が考えられるようになっている」という。

 「ノウハウ蓄積システム」は、職人を育てる、自ら育つためのシステムで、同社では「虎の巻」と呼ばれる。製造の際に苦労したことや注意したこと、引き継ぎたいことを製品DBに登録。職人のノウハウの蓄積、引き継ぎが可能になる。

「数年後にリピートがリピート品を受注した場合でも、不具合情報と併せて虎の巻が自動抽出され、結果的に職人のノウハウを社内で共有化することに成功しました」(山田氏)

 若手社員にもノウハウを書いてもらうことで技術の定着に貢献するとともに、多くのノウハウを提供した職人を表彰することで、ノウハウ提供へのモチベーションアップの工夫もなされている。

 AWDSを用いた現場でのDX事例として、山田氏は材料部門の事例を紹介した。

 同社の材料工場は、本社工場から10分ほど離れたところにあり、これまで手書きの生産指示書を職人が本社から工場へ持っていき生産資源を調達していた。これをシステム化し、データベースから共通材料をワンクリックでグルーピングできるようにし、職人の探す時間の短縮、能力に依存しない生産体制に変えることができた。

 さらに、紙管理からデータベース管理に変えたことで、リピート時にはPC上のボタン操作だけで生産開始できるようになり、新規受注から生産開始までのリードタイムが平均で2日短縮できるようになったという。

 山田氏は、同社の技能継承術について、「職人のノウハウを積極的に集め、共有し、若手社員が自分で確認できるようにすることがポイントだ」とした。そして、今後も職人が自分の仕事に集中でき、データを活用した若手育成の仕組み整備することに取り組んでいきたい」と締めくくった。

本記事は2024年9月4日~2024年9月6日に開催された「Factory Innovation Week」の講演内容をもとに再構成したものです。
同セミナーは10月の「名古屋Factory Innovation Week」でも開催予定です。

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