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2022年11月2~4日に開催されたシンガポールフィンテックフェスティバル(Singapore FinTech Festival:SFF)は、2019年以来の対面での開催となり、世界各国から集まった6万超の参加者でにぎわいをみせた。シンガポールが国をあげて開催するにあたって「世界で最も影響力のあるフィンテックイベント」と称しているだけあって、シンガポールの取り組みを理解するだけでなく、世界のフィンテックの流れを感じることができた参加者も多かったものと思われる。
巨大な「シンガポールフィンテックフェス」
SFFは、空港近くの国際展示場(EXPO Convention Centre)の6ホール全部を使って開催された3日間のメインイベントに加えて、イノベーションラボ訪問、政策当局と投資家向けのセミナーなどの事前イベントなどを含めて1週間にわたって開催された。
主催者のシンガポール金融管理局(MAS)とエレバンディ(ELEVANDI)によれば、6万2000人の参加者、850超の登壇者、500超の展示、295の政府や規制機関の参加があったという。さらに、世界の金融サービス企業、大手銀行上位50行のいずれも半分以上が参加していることもその影響力を物語っている。
SFFの歴史は比較的新しい。「フィンテック」がメディアで頻繁に取り上げられるようになった2016年に初回が開催され、当時は1万人程度の参加者であった(筆者も登壇)。その後、年を追うごとに規模が拡大し、2019年には6万人に達した。コロナ禍で2020年と21年はオンライン開催を与儀なくされたが、今年は久々の対面開催ということもあり各国フィンテック関係者が集まり、コロナ前の水準が復活した。
メイン会場での3日間では、金融機関やIT企業、スタートアップ、業界団体、世界各国パビリオンなどによって大小さまざまな展示があり、会場内に設定された8カ所のステージで多くの講演が実施されたほか、アクセラレータプログラム(Global FinTech Hackcelerator)の入賞者も発表された。
特に6つあるホールの1つの全体を占め、1000人以上を収容できるメイン会場においては、イーサリウムの創始者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)、ゲイツ財団のメリンダ・ゲイツ(Melinda Gates)といった著名人が登壇しただけでなく、フィンテック企業や金融機関、当局関係者らが集った。
具体的には、グラブ(Grab)やワイズ(Wise)、コインベース(Coinbase)、バイナンス(Binance)などフィンテック企業、DBS銀行、香港上海銀行(HSBC)、平安保険、プルデンシャル・ファイナンシャル(Prudential)、JPモルガン・チェースなどの金融機関、マスターカード、アントフィナンシャル、テンセント、ペイパルなど金融サービス企業の経営者、MASや国際通貨基金(IMF)、国際決済銀行(BIS)、アジア開発銀行(ADB)などの当局関係者らだ。
シンガポール金融管理局がイベント開催に「本気」な理由
SFFが単なる国際見本市やセミナーと異なるのは、主催にMASが名を連ねる通り、シンガポールの国策に従って運営されている点である。同じく主催者のELEVANDIはSFFを運営してきたMASのチームが独立してイベント運営専門会社が設立されたもので、MASの別働隊と考えられる。
シンガポールは金融立国を目指す中で金融機関およびそのイノベーションラボを積極的に誘致し、フィンテック企業の集積を図るために、MASに専門部隊を作って補助金を出したり、法規制に関する相談を受けたりするなどの施策を実現してきたが、その延長として世界にアピールする場として開催されるようになったのがSFFである。
このため、SFFではMASのフィンテックに関する最新の姿勢が開示されるのが通例であるが、今回はラヴィ・メノン(Ravi Menon)長官による11月3日に行われた
基調講演において説明された。
Menon長官は、フィンテック投資の総額が2019年の9億USドルの水準から2021年には39憶ドルに拡大したことにみられるようにシンガポールのフィンテックは順調に拡大してきている中で、目先重要と認識しているテーマを説明した。「火・水・木・金・土」の5種類の基本物質で世界は構成されるという中国の5行思想になぞらえ、以下5項目が挙げられた。
- (水のように流れる)「即時決済(instant remittance)」
シンガポール国内でPayNowというリアルタイムで少額決済ができる仕組みを実現しており、タイとの接続も開始し、インドやマレーシアとの接続を進めているが、汎用的な国際決済をどのように実現するかは大きな課題である。BISが進める「Project Nexus」に参加し、まずはASEAN域内での実現を目指している。
- (金属のように強固な)「(分散処理による)細分化された決済(atomic settlement)」
異なる分散台帳上のデジタル資産の交換をリアルタイムで実現することが必要となっていくことから、MASは「Project Ubin」に取り組んできた。その成果がDBS、JP MorganとTemasekの共同プロジェクトである「Partior」で実現している。さらに、MASはCBCD利用を前提とした新しいプロジェクトとして「Ubin+」を準備している。
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