マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia:BNM)は4月29日、店舗ネットワークを持たないインターネット専業の「デジタルバンクライセンス」を5つのグループに付与すると発表した。ライセンス審査は29グループからの応募を基に進められ、最終的にマレーシア財務省(Minister of Finance Malaysia:MOF)の承認を必要とする、厳密なものであった。
ライセンス交付先の発表にあたってBNMは下図のように評価基準を公表しており、前述の「金融包摂」に加えて「健全性(Prudential)」「技術(Technology)」「マレーシアの国益(Best Interest for Malaysia)」という4つの重要ポイントを挙げている。こうした点からも、国際金融都市のプレゼンス向上が強調されていた香港やシンガポールとは一線を画す選定だったことがうかがえる。
・GXS Bank and Kuok Brothers GXS銀行(GXS Bank)は、シンガポールでデジタルバンクのライセンスを取得した配車サービスGrabとモバイル通信シングテル(Singtel)のコンソーシアムである。これまでにもグラブ(Grab)はマレーシアでBNPLサービス「GrabPay Later」、シンガポールではマイクロ投資サービス「AutoInvest」といった金融商品を提供してきた実績がある。
同陣営は、BNMが掲げる、マレーシアの未開拓・未サービス市場に対応するデジタルバンクへの期待に応える零細中小企業及び地元のギグワーカーに対するバンキングサービス提供が期待される。新銀行のCEOにはスタンダードチャータード銀行マレーシア(Standard Chartered Malaysia)で代表を務めたペイ・シ・ライ(Pei Si Lai)氏が就任予定で、開業にあたっては200人ほどのスタッフを雇用する見込みであることが発表されている。
・Sea Group and YTL Digital Capital シーグループ(Sea Group)も、既にシンガポールでデジタルバンキングのライセンスを取得している。Eコマース最大手ショッピー(Shopee)の親会社として広く知られており、マレーシアではShopeePayやSPayLaterなどのフィンテックサービスを展開している。Shopeeは、2021年第2四半期時点で、月間約5400万人のユーザーを集め、地元市場における強いブランドプレゼンスを示しており、マレーシア人の購買に関する顧客行動や趣味・嗜好のビッグデータを保有している。そうした大規模データの活用を通じて、マレーシアの消費者ニーズに対応してパーソナライズされた金融商品・サービスを開発することが期待されている。
・Boost Holdings and RHB Bank ブースト・ホールディングス(Boost Holdings)(以下、Boost)は、マレーシアテレコムから国際通信部門が独立して設立されたアシアタ(Axiata)傘下の電子決済サービス(eウォレット)企業である。2017年にサービス開始した当初は、思い切ったキャッシュバックで利用者を拡大し、請求書支払、保険、オンラインショッピング、通信端末のトップアップ、旅行チケット購入など、他のサービスも提供するようになっている。
・AEON Financial Service Co., Ltd., AEON Credit Service (M) Berhad and MoneyLion Inc.
日本のイオンフィナンシャルサービスが1996年にマレーシアで設立したイオンクレジットサービスは、クレジットカード発行、決済手段の提供、個人向け融資、保険などの金融サービスを提供しているノンバンク金融機関で、マレーシア国内で200以上の店舗ネットワークを構築、株式市場(Bursa Malays)で株式公開するなど、地元に定着している。
2013年にニューヨークで設立された米フィンテック企業マネーライオン(MoneyLion)は、2021年9月にニューヨーク証券取引所(NYSE)にSPAC上場している。消費者向けに融資や財務アドバイス、投資サービスなどを提供するアプリを展開しているが、共同創業者でCTOのチー・ムン・フォン(Chee Mun Foong)氏がマレーシア人で、システム開発をマレーシアで行っていることもあり、コンソーシアムに参加したものと見られている。