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あらゆる資産(オフィス機器、産業機器、医療機器、建物、航空機など)を一括で仕入れて企業に貸し出すリース事業には、銀行グループが設立する銀行系に加えて、商社系、メーカー系、独立系など、さまざまな企業が参入している。本記事では、リース業界全体を視野に入れながら、大手リース会社を軸として業界を取り巻く環境と動向を考察していく。また、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻などの影響についても解説したい。お聞きしたのは、日本格付研究所 金融格付部の杉浦輝一氏だ。
リーマンショック後の業界のリース取扱高は低迷
リース事業協会による日本国内のリース取扱高の推移を見ると、
2005年度の7.9兆円が直近のピークになっている。その後、2008年に起こったリーマンショックやリース会計制度の変更によって低迷期に入り、2011年度には4.6兆円まで落ち込んだ。その後、2012年度以降は比較的、堅調に推移してきた。しかし、コロナ禍による経済活動の低迷の影響によって、2020年度には4.5兆円、2021年度には4.2兆円と減少傾向が続いている。
リース業界全体の現状について、日本格付研究所金融格付部の杉浦輝一氏はこう解説する。
「リーマンショック以降は、社会や顧客の幅広いニーズに応えて良質なアセットを積み上げてきた結果、順調に業績が改善していました。国内の再生可能エネルギーや不動産の開発に向けた投資のほか、特に海外向けのリース・融資が牽引してきました。足元でその状況が変わるかもしれない出来事が、世界的な金利上昇です。資金調達のコストはリース会社の収益に大きな影響を及ぼします。外部から借りた資金で顧客企業が求めるアセットを購入し、貸す(リースする)のがビジネスの基本構造であるため、仕入れに相当する調達金利が上がるとリース料に転嫁していかない限り、収益が圧迫されてしまいます」(杉浦氏)
さらに、金利の上昇が景気の悪化を招き、顧客企業の経営状況が悪化すると、返済が滞るという負のスパイラルに陥る可能性が大きくなってしまう。
「リース会社にとって直近の状況は、金利上昇による資金調達コストの増加と顧客企業の経営状態悪化による信用コストの増加という、主要な2つのコストが増加するリスクが高まる点でネガティブと考えています」(杉浦氏)
コロナ禍で業界全体は停滞、それでも微増した「リース機種」は?
マイナスの状況にさらに拍車をかけたのが、コロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻の影響であった。ただしコロナ禍の影響に関しては、「リース業界はよく耐えた」というのが杉浦氏の評価である。
「コロナ禍によって景気は停滞し、2021年度のリースの取扱高は、あらゆる機種において前年比で減少しています。しかし、取扱高が減少してもダイレクトにリース会社の業績が悪化する事態にまでは至りませんでした。リース会社のビジネスの基本は、中長期のファイナンスです。新たな取扱いが低迷しても、資金調達コストが安定していて、これまで貸している企業がリース料を払ってくれている分には、利益に大きな影響が出ないからです」(杉浦氏)
2021年度のリース機種別取扱高の前年比の推移を見ると、それぞれ前年比で「情報通信機器」6.2%減、「事務用機器」12.1%減、「産業機械」14.5%減、「工作機械」19.3%減、「土木建設機械」2.3%減、「輸送用機器」1.2%減、「医療機器」3.9%減、「商業及びサービス業用機器」(7.1%減)と、すべての機種の取扱高が、前年比でマイナスになっている。
前年の2020年の「情報通信機器」の内訳を細かく見ると、通信機器および関連機器は前年比で14.1%増加している。これはコロナ禍の影響でリモートワークが増加し、企業が設備を整えるために、リース会社を利用した結果だろう。ただし、需要が一巡したと考えられる翌年の2021年には、また減少に転じている。
コロナ禍の影響が顕著に表れたのは、航空機のリースである。リース会社にとって、航空機リースは市場が大きく、収益性も高いビジネスであるが、コロナ禍による世界的な航空需要の減少の影響は避けられなかった。経営基盤の弱い航空会社の中には倒産に至るケースもあった。しかし、主要な航空会社の多くは所在国からさまざまなサポートを受け、リース会社からはリース料支払いの猶予を受けることよって危機を乗り越えている。
その後、ほとんどのケースで、航空会社からリース料の支払いが再開された。航空機のタイプをなるべく中古の価値が高いものに絞り、地域や顧客のリスク分散を図っていたリース会社にとっては、ダメージは少なかったのだ。
ロシア・ウクライナ情勢がもたらした大打撃の真相
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は、航空機のリースに大きな影響を与えたと、杉浦氏は語っている。
「大手リース会社の事業範囲は広く、ウクライナ情勢が事業全体に直接影響するわけではありません。しかし、航空機のリースに関しては、想定を超えるようなリスクが発現しました。紛争が起こったことによって、ロシアに対する制裁が発動され、航空機のリースの契約が解除されましたが、結果としてロシア向けにリースされた航空機は返却されていない状態にあります」(杉浦氏)
ロシアは航空機を返還せず、リース料も支払っていないという状況があるのだ。
「リース会社としては『航空機もリース料も回収の見込みが立たない』という判断をし、各社、減損を既に計上したか、今後する予定です。会社によって、2022年3月期の決算に反映しているところもあれば、今期の2023年3月期に反映させる予定のところもあります。今後、リース会社が航空機に掛けていた損害保険について支払い対象となるかはまだ協議中です。ウクライナ情勢は、足元の収益面ではリース業界に少なからぬインパクトを与えたと認識しています」(杉浦氏)
【次ページ】リース需要は低迷、リース会社がこれから「注力すべき事業領域」とは
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