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都市部に近いエリアの狭小住宅で業績を伸ばしているオープンハウスがフィンテック事業に参入する。不動産と金融の関係は密接であるどころか、ほぼ一体の関係にあると言って良い。コロナ危機をきっかけに不動産市場も大きく変化しており、今後は不動産ビジネスと金融ビジネスの融合が急ピッチで進むだろう。
購入者の一生を丸ごと支援
オープンハウスは2021年8月5日、住宅の購入者が電気料金などを一括で引き落とせるネット銀行「おうちバンク」を設立したと発表した。同社は子会社を通じて住信SBIネット銀行と銀行代業務委託契約を締結しており、関東財務局から銀行代理業の許可を取得した。住信SBIネット銀行が提供する仮想銀行システム「ネオバンク」を使って事実上の銀行業務を行うことができる。
同社は販売した住宅の購入者向けに電気やガス、ネットなどのサービスを一括で申し込める「おうちリンク」のサービスを提供している。新しい銀行サービス「おうちバンク」は「おうちリンク」と連携する形で、各種料金をおうちバンクで引き落とした場合には、付与されるポイントが増額されるといった特典が付く。
おうちリンクで付与されたポイントは、将来、住宅をリフォームする際の代金に充当できるような仕組みを想定しており、住宅の購入を通じ、日常生活から将来のリフォームまで、購入者のライフプランを丸ごと支援できるサービスを展開する。
さらにオープンハウスでは、資金力の乏しい中小工務店などにシステムを外販することも視野に入れており、場合によっては中小工務店をネットワーク化した新しい企業集団が形成される可能性もある。
現状、おうちバンクは提携住宅ローンの提供にとどまっているが、同社は独自の住宅ローン提供も検討しているという。決済だけでなく資金まで提供できるようになれば、まさに消費者の一生を丸ごと支援する業態にシフトできる。家を作って売れば終わり、という従来のハウスメーカーやデベロッパーとはビジネスの概念が大きく変わることになる。
これまで住宅の購入は住宅メーカーやデベロッパー、住宅ローンは銀行、という役割分担が出来ていたが、オープンハウスのような業態が一般的になると、両者の垣根は限りなく低くなる。これは金融とITを融合したフィンテックの進展と、それに伴う各種の規制緩和があって初めて成立する新業態であり、今後は不動産ビジネスと金融ビジネスのサービスはさらに近い存在となっていくだろう。
フィンテックに最適な規模感というものがある
フィンテックが進展すれば、理屈上はどのような企業でも金融と融合したサービスに参入できるが、現実はそれほど簡単ではない。
金融というのは基本的に規模のメリットがモノを言う業態であり、多数の顧客を抱えていることに意味がある。特にフィンテックでは、顧客の資金の動きをAI(人工知能)が分析し、最適なサービスを提供したり、審査を行うといったことが期待されている。こうしたシステムを有効に作用させるためには、それなりの顧客基盤が必要だ。
ではメガバンクのように、多くの顧客を抱えていれば良いのかというとそうでもない。たしかにメガバンクには多数の顧客が口座を開設しており、最大手の三菱UFJフィナンシャルグループは3400万口座に達する。だが銀行ではおおまかなお金の出入りしか分からないので、個人の生活に深く立ち入った分析は難しい。
顧客のお金の動きがよく分かる業界で、それなりの大きさの顧客基盤を持つ企業が最もフィンテックに参入しやすいということになるが、その点においてオープンハウスの業態や規模感は最適である。
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