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新型コロナウルスの感染拡大は、キャッシュレス化をはじめとする社会のデジタル化を一気にすすめると同時に、給付金の配布などで、我々の社会が持つ脆弱性も露わにした。ウィズコロナ、アフターコロナの時代、世界そして日本の金融はどのような姿になるのか。ペイロールカード、オルタナティブデータ、マイナンバー制度、中央銀行デジタルマネー……など。前編に続いて、国立情報学研究所 喜連川 優氏をモデレーターに、京都大学大学院 岩下 直行氏 日本総合研究所 翁 百合氏、日本銀行 副島 豊氏、金融庁 松尾 元信氏、三井住友DSアセットマネジメント 渡辺 一男氏が語った。
※本記事は、2020年12月14日に行われた「NII 金融スマートデータ研究センター・シンポジウム」での講演内容をもとに再構成したものです。一部の内容は現在と異なる場合があります。肩書は当時のものです。
特権的な銀行預金とペイロールカードの議論の関係
バンキングや決済機能などのオンライン化がより一般的になると本人確認が問題になる。京都大学公共政策大学院教授 岩下 直行氏は、この問題はペイロールカード導入の議論とも関連していると述べる。ペイロールカードとは、「給与振り込みが可能なプリペイドカード」のことだ。
日本では、労働基準法によって給与の支払いは「原則、現金払い」と定められており、その例外規定として一定の条件を満たせば銀行口座や証券口座への振込が認められている。そして現在、そこにプリペイドカードなど資金移動業者が提供する口座を新たに追加する議論が進められている。岩下氏は次のように述べる。
「これまでは銀行の預金には特別な地位が与えられていたのです。逆にいうと、銀行預金がないと給料を受け取るのも大変だったのです」(岩下氏)
これが原因で、たとえば留学生に給料を支払うのが面倒だという問題もあった。ただし、だからといって簡単に口座を作れるようにすると、その口座を海外で犯罪に悪用されかねないと懸念があったのも事実だ。
岩下氏は「問題なのは、銀行預金には特別な地位が与えられているにもかかわらず、これまでしっかり管理されてこなかったことです」と述べる。
たとえば、クレジットカードには数年おきに審査があるが、銀行口座は一度作ったら一生使える。外国人にも口座を作れるようにするなら、本人確認も含めて、登録した住所に確実に住んでいることなどをトレースするような仕組みが必要なのに、それをしてこなかった。
「したがって、現在のペイロールカードの議論については、『銀行は本来やるべきことをやっていないのではないか』という印象を私は持っています」(岩下氏)
金融におけるオルタナティブデータの現状と懸念
最近は、政府や企業が公式に発表する統計データや決算データとは異なる「オルタナティブデータ」にも注目が集まっている。金融分野でも活用が始まっているが、その進捗のレベルはどれくらいなのか。三井住友DSアセットマネジメント執行役員 渡辺 一男氏は、次のように説明する。
「データベースに入っているトラディショナルなデータは非常に分析しやすいのですが、オルタナティブデータはデータベースの構造がそれぞれ異なるため、ハンドリングが難しいのが実態です。そこを共通化させる動きもあるようですが、誰もが扱えるようになると、本来の価値を失うというジレンマを抱えています」(渡辺氏)
一方、オルタナティブデータに危惧を示すのが、国立情報学研究所長 喜連川 優 氏だ。
「いろいろな情報を集めたら、直接的な個人情報は含まれていなくても、個人を容易に特定できるのではないかと心配しています。やろうとすればできるけれど一線を越えるべきではない、といった議論もありうるのではないでしょうか」(喜連川氏)
ただし、渡辺氏によればテクノロジーはまだそこまでは進んでいないようだ。データを利用する際には個人情報をマスキングするなどの処理をして分析しているため、現状ではまったく個人情報が分からない形で取り扱っているという。
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