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APIエコノミーの進展により、BaaS(Banking as a Service)、埋込型金融(embedded finance、金融以外のサービスを提供する事業者が金融サービスを既存サービスに組み込んで提供すること)などの概念が実現されつつある。なぜ今、新しい金融の形が求めらるのか、その実装を進める上での課題は何か。金融庁の大久保 光伸氏をモデレーターに、日本マイクロソフトの藤井 達人氏、インフキュリオン社長の丸山 弘毅氏、OpenID Foundationの富士榮 尚寛氏、JALペイメント・ポートの松尾 拓哉氏らが、未来の金融のあるべき姿を議論した。
※本記事は、2021年3月16~18日に行われた「FIN/SUM 2021」での講演内容をもとに再構成したものです。一部の内容は現在と異なる場合があります。肩書は当時のものです。
急拡大する金融APIエコノミー、ステークホルダーの取り組み
2018年6月に施行された「改正銀行法」(銀行法等の一部を改正する法律)によって、銀行預金口座のシステムを外部事業者とつなぎ、データをやり取りする「オープンAPI」の導入義務が銀行に課された。以降、金融庁が中心となって「データ利活用」「資金移動業」「上限緩和」「IT企業への出資」などさまざまな形で、オープンイノベーションを推進するための規制緩和が実施されてきた。
内閣官房の政府CIO補佐官であり、2021年1月に金融庁参与に就任した大久保 光伸氏は「APIの活用は広がりを見せている。APIエコノミーにおける金融の役割を再考するというテーマで、事業会社、イネイブラー、ライセンスホルダーなどさまざまな立場の取り組みを紹介していきたい」と語り、同セッションの方向性を示した。
まず、日本マイクロソフトの金融イノベーション本部長である藤井 達人氏が、同社の取り組みを紹介した。同氏は、金融機関で最高デジタル責任者(CDO)を務めたこともある人物。現在は金融機関の顧客企業に対して、DX(デジタル変革)を支援する取り組みを指揮している。
藤井氏は「マイクロソフトは、『Microsoft Azure』『Microsoft Teams』『Microsoft Dynamics』などを提供しているので、テクノロジー企業という側面が強い。しかし、近年は、テクノロジープロバイダーとしてだけでなく、金融機関のパートナー企業と目標を共有して事業を一緒に創り上げることにも注力。マイクロソフト自身がファーストパーティーとして開発するなど、金融業界に対して深く貢献する取り組みを進めている」と説明する。
たとえば、グローバルな金融機関との戦略的パートナーシップを締結だ。Microsoftは2019年11月に独Allianzと、2020年8月に英国のStandard Chartered Bankと協業し、Microsoftのテクノロジーを活用したDX推進に取り組んできた。
日本マイクロソフト独自の取り組みとしては、2021年1月にフィンテック・インシュアテック領域の強化に向けたパートナー協業プログラム「Microsoft Enterprise Accelerator - Fintech/Insurtech」を開始した。エンベデッドファイナンス、オープンバンキングを含むフィンテック技術やビジネスモデルを持つ企業十数社とパートナーシップを組み、金融機関のDXを支援するプロジェクトを進めている。さらに同年2月には、「Microsoft Cloud for Financial Services」を発表し、金融業界向けクラウドパッケージを展開している。
デジタル化した消費者行動に金融を埋め込むのは必然
日本マイクロソフトとパートナーシップを組む十数社のうちの1社、インフキュリオンの代表取締役であり、フィンテック協会常務理事も務める丸山 弘毅氏も登壇。自身が携わる事業内容を紹介した。
インフキュリオンの子会社であるネストエッグでは、個人向けの貯金アプリ「finbee」を開発・提供。電子決済等代行業者として、銀行の更新系APIの活用にかなり早い段階から取り組んできた。
また最近では、BaaSやエンベデッドファイナンスのイネイブラー(サービスを成立させるための機能や仕組みの提供者)として、APIを利用する企業向けの仕組みをサービス化したり、近年注目されているAPIベースのカード発行システムを提供している。
丸山氏は「ユーザー目線で考えると、銀行の基幹システムから出ているAPIだけでは物足りない。さまざまなサービスと組み合わせる必要がある」と話す。そのイメージとして、丸山氏は、銀行の基幹システムの1段上のレイヤーにBaaS基盤を置き、さまざまな金融機能を「デジタル化する金融機関」や「金融のライセンスを取得してネオバンク・スーパーアプリ化する事業会社」をAPIでつなぐ構成を提示した。
「なぜ今、BaaS、エンベデッドファイナンスが求められているのか。それは、消費者の行動自体がデジタルでシームレスになっているから」(丸山氏)
現在のコロナ禍では、オンラインで買い物をしたり、サービスを予約したり、コンテンツを購入して楽しむ人も増えている。金融サービスが必要なのは「決済」の瞬間だけだが、その前後の行動もデジタルの上で行われている。「一連のユーザー体験の中に“金融”が埋め込まれていくのは当然のこと」と同氏は語る。
たとえば、実店舗で買い物をする際には、現金、カード決済、QRコード決済などさまざまな決済手段がある。しかし、異なるアプリを複数使い分けることも起き、ユーザーの利便性は高くない。そこで、購買とは直接関係のないアプリに決済機能を埋め込んだり、QRコード決済を可能にしたり、「貯金」「投資」などの機能を実装する動きも広がっていると丸山氏は現状を説明する。
“非”金融の航空会社がネオバンクを始めた理由
BaaSやエンベデッドファイナンスの恩恵を受け、航空業界から金融の世界に参入した企業の1つが、ネオバンク事業を展開するJALペイメント・ポートだ。同社で取締役マーケティング部長を務める松尾 拓哉氏は、事業会社の立場から“非”金融企業がAPIを通じて行う金融事業を説明した。
JALでは中期経営計画の中で、航空以外の新領域のビジネスを成立させ、すそ野を広げていくことを掲げている。その柱の1つに「フィンテック会社設立」があり、共同事業会社による国際ブランド・プリペイドカード事業への参入や、ネオバンクとして新たな金融商品・サービスの提供を計画している。「JALペイメント・ポートは、その実現した1つの形」と松尾氏は話す。
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