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- 2022/06/15 掲載
製造業復活は難しい? もう“円安”でも輸出企業が儲かるわけではない理由
円安で利益となるのは輸出と輸入の差分だけ
理屈上、為替が安くなると、円ベースで見た輸出企業の売上高は増える。だが輸出企業は、製品のすべてを内製しているのではなく、原材料や部品を海外から輸入して、国内で生産を行っているため、円安になると一連の仕入れ価格も上昇する。実際に円安が進んで利益になるのは、輸出と輸入の差額分のみということになる。これまで100円で部品や原材料を輸入し、完成品を200円で海外に売っていた場合、その企業が獲得できていた差分(付加価値)は100円である。ところが為替が10%の円安になった場合、輸入価格は110円に値上がりするものの、輸出価格も200円から220円に上がる。差分は110円なので、当初の差分である100円よりも大きくなる。これが円安で輸出企業が儲かる仕組みである。
近年、日本企業は積極的に生産拠点の海外移転を進めており、日本からの輸出は相対的に減少している。海外で生産した分については直接的に為替の影響を受けないので、円安のメリットを享受できない。かつて円安は日本経済にとってメリットになると説明されていたにもかかわらず、その認識が逆になってしまった最大の理由は、製造業が日本から出て行ってしまったからである。
生産拠点を海外に移転した場合でも、多少の円安メリットはある。たとえば米国に生産拠点を移した企業が、ある製品を1ドルで米国内で販売すると仮定しよう。為替が1ドル=100円だった場合、日本から見た売上高は100円である。ここで日本円が10%安くなり1ドル=110円になったと仮定すると、米国内では相変わらず1ドルだが、日本円ベースで見た売上高は110円に増える。
企業の決算はすべての地域の事業を合算し、最終的に日本円ベースで作成されるので、例え輸出していなくても(現地での販売が行われていれば)、円安になると収益は拡大する。
もっとも、決算書上での収益が多少増えたところで、日本経済全体への影響は限定的だ。輸出が経済に貢献するのは、輸出そのものに加え、当該製品を製造するための設備投資によるところが大きい。現地生産の場合、設備投資は海外で行われるので、その資金は日本国内に落ちない。加えて言うと、純粋な輸出についても、先ほど説明したように、利益になるのは輸入と輸出の差分だけなので、輸出の数量が増えない限り、大きな利益にならない。つまり、円安のメリットを100%生かすためには、輸出の数量を増やす必要がある。
円安のメリットは数量が増えてこそ発揮される
円安になると輸出の数量が増えるメカニズムは、一般的には以下の通りである。1ドル=100円の状態で、ある企業が製品を1ドルで輸出していたと仮定する。為替が1ドル=120円になると、日本円ベースでの売上高が120円に増えるというのは先ほど示した通りである。輸出企業にはここで2つの選択肢が生じる。1つは、今のままビジネスを続け、2割の増収というメリットを享受するというもの。もう1つは、思い切って値下げを行い、たとえば0.83ドルで製品を販売するというものである。
0.83ドルに値下げすると、日本円ベースでの売上高は99.6円(1ドル=120円の為替レートを0.83ドルに適用)となり、1ドル=100円時代の売上高である100円とほぼ同じになる。このままでは何も変わらないが、価格を下げたことで販売数量が大幅に伸びる可能性がある。仮に価格を2割下げたことで販売数量が2倍になれば、日本円ベースでの売上高は約200円と倍増する。
さらに言えば、海外生産を行っている企業が、円安をきっかけに日本国内に生産拠点を戻す可能性もある。そうなると日本からの輸出は増えるので、輸出代金はもちろんのこと、設備投資も国内に落ちるようになり、日本人の所得が増える。生産拠点の国内回帰と値下げは異なる措置だが、日本からの輸出数量の増加をもたらすという点では同じことである。
つまり、円安によって得られる最大の効果は輸出数量の増加であり、これが実現しなければ、本当の意味で円安メリットを享受したとは言えない。企業が価格戦略を変更するまでには時間がかかるので、為替が円安になってから、その効果が具現化するまでにはタイムラグがある。この時間差のことを経済学の世界では「Jカーブ効果」と呼んでいる。
このメカニズムが働くのであれば、当初は円安によって輸入品の価格上昇という弊害が発生するものの、時間が経過すれば、輸出の数量増加を通じてメリットが大きくなってくるとの予想が成り立つ。円安による製造業復活を望む声は、このJカーブ効果を期待したものと考えて良いだろう。
【次ページ】為替が安くなっても輸出数量が増えない理由
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