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近年、金融のあり方を大きく変える仕組みとして、エンベデッドファイナンスが注目を集めている。エンベデッドファイナンスは「埋込型金融」と日本語で表されることもある言葉で、非金融事業者が自社サービスに金融機能を組み込んで提供する仕組みを意味している。アマゾンウェブサービスジャパン鶴田規久氏、メルペイ 山本真人氏、ストライプジャパン 荒濤大介氏、大日本印刷土屋輝直氏が現状と課題と展望について解説した。
※本記事は、日本経済新聞と金融庁が2022年3月に主催した「FIN/SUM2022:Fintech Summit(フィンサム)」の講演内容を基に再構成したものです。
埋込型金融(エンベデッドファイナンス)の価値とは?
金融の構造を大きく変革していく仕組みとして近年注目されているのが、埋込型金融(エンベデッドファイナンス)である。エンベデッドファイナンスとは非金融企業が既存のサービスに金融サービスを組み込むことによって、新たな金融サービスを提供する仕組みを意味している。エンベデッドファイナンスの登場によって、金融サービスが大きく広がっていくこと、そして金融企業と非金融企業との連携が増えていくことが予想される。
EY新日本有限責任監査法人の小川 恵子氏がエンベデッドファイナンスの可能性の大きさについてこう説明している。
「エンベデッドファイナンスは従来のフィンテックの延長に限らず、新たなエコシステムを創造することにつながり、新しいカスタマーエクスペリエンスを生むのではないかと期待しています」(小川氏)
現在のエンベデッドファイナンスの潮流を象徴しているのが、米国のAppleCardとUberである。AppleCardはアップルとゴールドマン・サックスとが組み、アップルIDに基づいて提供している金融サービスだ。Uberは移動・支払い・請求の3つが一体となったサービスを提供している。小川氏はエンベデッドファイナンスの構図についてこう説明する。
「ライセンスホルダーである金融機関が、お客さまに近いところに位置しているブランドと組むことで新しいサービスが生まれます。さらに両者の間にイネーブラー(サービスを成立させるための機能や仕組みの提供者)が入ってきて、膨大なデータのやりとりが行われるため、クラウドサービスを提供するプレイヤーが加わり、大きなエコシステムが構築されることを想定しています」(小川氏)
ライセンスホルダーとは金融の資格を持つ金融機関、ブランドは顧客接点を持つ企業、イネーブラーは両者をシステムによって連結する存在である。キープレイヤーが数多く参入することにより、活性化・活発化しているのがエンベデッドファイナンスの現状ということだ。
エンベデッドファイナンスから派生する新しいビジネスモデル
イネーブラーとして数多くの金融機関とブランドの連結にグローバルに関わってきている企業がストライプである。ストライプジャパン 共同代表取締役の荒濤 大介氏はエンベデッドファイナンスにおけるストライプの役割をこう説明している。
「ストライプは『インターネットのGDPを増大させる』をミッションに掲げて、決済サービスをグローバルに展開しているテクノロジー企業です。エンベデッドファイナンスでは主に3つのサービスを展開しています。BaaSに関するプラットフォームのTreasury、カード発行を可能にするIssuing、融資に関するCapitalです。この3つを活用して、プラットフォームや資金の流れの管理を実現しています」(荒濤氏)
ライセンスホルダー・ブランド・イネーブラーという3つの役割をすべて兼ね備えているのがメルカリである。メルカリの金融サービス部門を担い、メルペイのCEOである山本 真人氏はエンベデッドファイナンスでの立ち位置をこう語った。
「メルカリというサービスを母体として、金融系のサービスを提供する部分をメルペイとして司っています。メルペイの他にも、メルコイン・メルロジ・ソウゾウなどの新規事業も立ち上げました。メルペイではメルカリのお客さまに対して決済・与信・資産運用という3つのサービスを、メルカリのアプリに埋め込んで提供しています」(山本氏)
つまりメルカリグループの中でエンベデッドファイナンスが展開されているのだ。山本氏はこの流れを「循環型金融」という言葉で説明している。
「エンベデッドファイナンスの特性とは、今まで金融単体ではできなかった新しい価値を生み出すことだと考えています。決済は普通、持っているお金が減るだけですが、メルカリと組み合わせる事によって、モノを売ってお金を増やすこともできます。増やして使って、使った分を売って増やして……というお金とモノを循環できる循環型金融の価値を提供しています」(山本氏)
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