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地球レベルでの気候変動をデータとテクノロジーで解決する「クライメートテック(Climate Tech:気候テック)」が注目されている。気候テックによる気候変動の可視化やビジネスリスクの評価などが今後、融資や投資など金融面とどのように連携していくのか。金融庁の池田 賢志氏をモデレーターに、三井住友銀行の末廣 孝信氏、国立大学法人東京大学の馬田 隆明氏、Gaia Visionの北 祐樹氏、Persefoni AIのカワモリ ケンタロウ氏が、気候テックの現状と未来を議論した。
※本記事は、日本経済新聞と金融庁が2022年3月に主催した「FIN/SUM2022:Fintech Summit(フィンサム)」の講演内容を基に再構成したものです。
気候変動の定量化は金融上の意思決定に重要な影響を及ぼす
地球規模の気候変動がビジネス継続におけるリスクであるとの認識が浸透しており、企業や金融機関が気候変動を定量的に把握するための「データ不足」「分析手法」などの課題をAIやデータ分析などのテクノロジーで解決しようとする「クライメートテック(気候テック)」が注目されている。
金融庁の池田 賢志氏は、菅政権が2020年10月26日の所信表明演説にて示した、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」宣言以降、急速にクライメートテック領域の取り組みが進んでいる点について触れた。
特に、気候変動と金融との接続は非常に重要だ。というのも、金融上の融資や投資などの判断にCO2排出の情報が重要になってくるからだ。
「たとえば、気候変動に影響を与えるCO2排出量が多い企業は、カーボンニュートラルを目指す中で従来のビジネスモデルが継続できるか疑問符がつきます。あるいは水害などの自然災害が激甚化する中で、そうした備えが十分にできているかも、金融上の判断に重要になってくるでしょう」(池田氏)
そこで、CO2の排出量を定量的に把握し、その企業のCO2排出の実態や、ビジネス活動の実態をデータから明らかにし、分析することで「これまで管理会計、財務会計のように企業の実態を把握するための指標のように、CO2排出実態が企業経営を測る指標の1つになっていく」と池田氏は述べた。
また、BCP(事業継続計画)の観点からも、自然災害のリスクと企業の備えを定量的に把握することを、金融の観点からテクノロジーを使って効率化していくクライメートテックの取り組みは、ますます重要性を増していくだろうということだ。
クライメートテックの「3つのビジネス機会」
続いて、日本におけるクライメートテックの現状を明らかにしたのは国立大学法人東京大学の馬場隆明氏だ。馬場氏は「世界的にクライメートテック領域の注目度は高まっており、ファンドも続々と組成されている」と述べた。その数は「2021年に入ってから30以上」ということで、事業会社が自己資金でファンドを組成するコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)も増えているという。
そして、クライメートテックのビジネス機会には「3つの側面がある」と馬田氏は話す。すなわち「理解する」「緩和する」「対処する」の3つで、「理解する」は現在の情報を集めるためのもの。たとえば、気候リスク分析やモニタリング、カーボンラベリングなどだ。
「緩和」は、対策を講じるための技術開発や社会実装で、生産、デリバリー、消費などの側面。そして「対処」は、緩和策の限界を超えた問題に事後的に対応することで、気候変動リスク向け保険、炭素クレジット市場でのカーボンオフセットなどが考えられる。
その上で馬田氏は、「クライメートテックのメインは、緩和のための技術開発と社会実装にある」と述べる。特に、金融は「理解」「対処」に果たす役割が大きいということだ。たとえば、炭素会計の実施や削減戦略の策定、クレジットの購入、供給などの分野で海外ではIT系企業出身の起業家たちが続々と参入しており、スタートアップが続々と大規模調達をしているのがこの2年間の動向だ。
「法規制にキャッチアップし、自動的に自社のビジネス状況を適応していくのは人手では限界があります。そこでテクノロジーを活用して、アジャイル・ガバナンスを実現していくことが重要です」(馬田氏)
一方、日本ではクライメートテック領域のスタートアップは100社にも満たないのが現状で「日本でもクライメートテックを盛り上げていかないと波に乗り遅れる」と馬田氏は危機感を示した。
気候ビッグデータを用いたリスク分析プラットフォームを提供
気候変動による「リスク分析」も、気候テックに欠かせない要素の1つである。Gaia Visionの北 祐樹氏は、自社で開発している気候ビッグデータを用いたリスク分析プラットフォームについて発表した。
北氏は、気候変動の影響により世界中で気象災害が増加し、経済被害も増えていると述べた。世界の自然災害による経済損害額は、2000~2019年の累計額に比べ、2020年の経済損害額が上回っているとの数字もある。
Gaia Visionでは最新の気象科学の研究成果を利活用した気候物理リスク分析プラットフォーム「Climate Vision(仮)」を開発。東京大学の知見を用いて独自に計算した最先端の河川モデルと気候データにより、世界中の洪水リスクを過去から未来にわたりシミュレーションできるものだ。
「Where?(企業や金融機関のウィークポイントはどこか)」「What?(水害、台風などどんなリスクがあるか)」といった観点で、気候変動による物理リスクの特定と評価を行う。
北氏は、他のクライメートテック企業に対するGaia Visionの強みとして「先端の機構化学を反映したデータ基盤」「データから財務影響評価まで統合した分析モデル」「非専門家でも使える情報プラットフォーム」の3点を挙げた。
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