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ITのみならず幅広い分野に影響するキーワードとして注目される「ブロックチェーン」「Web3」。この5月に始まる暗号資産価格の急落により取引マーケットは冷え込み、ビットコイン価格は2021年12月の最高値の4割程度、NFTは最大市場の取引について2022年ピークの17分の1に縮小しているが、社会実装に向けての取り組みは確実に増えている。業界を振り返り、今後の道筋を再確認することで、ブロックチェーン業界の今後のビジネス展望を概観する。
暗号資産を巡る動向
まずは、暗号資産(仮想通貨)を取り巻くトピックを振り返っていこう。
2020年初、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった時、暗号資産市場にもたらされたのは大幅な価格下落であった。これは株価とも連動する金融市場全体の動きで「コロナショック」とも言われている。
ところが、2020年4月にビットコインの供給量が減少する半減期というイベントを機に、暗号資産市場はにわかに活気づくことになる。2020年7月頃からはコロナ対策で各国が行った財政出動がインフレを招き、これに対するヘッジ策としてビットコインをバランスシートに組み込む企業が多数現れた。
その後、2020年10月の
PayPal参入 を契機として暗号資産の価格は大幅に上昇、機関投資家や金融機関の参入表明が相次ぐ強気市場となった。この間に、暗号資産ユーザーは世界で1億人を突破し、時価総額も200兆円を上回った。
これらの動きがひとまずの収束を見せたのは、2021年4月に米国NASDAQに大手暗号資産取引所であるコインベースが上場した頃だ。同社の上場は一般の投資家に対して間接的に暗号資産へのエクスポージャーを提供する意味を持っていたが、上場後のパフォーマンスは芳しくなく、むしろフィデリティ(Fidelity)やスカイブリッジ・キャピタル(SkyBridgeCapital)が申請を行ったETF(上場投資信託)に期待を集める結果となった。
コインベースの上場後、方向感を失いつつある暗号資産市場に衝撃を与えたのは、2021年5月に中国政府が発表した暗号資産規制の強化方針だった。
2019年にも暗号資産の国内取引を原則禁止としていた中国だったが、OTC取引(店頭取引)やマイニングといった周辺ビジネスは暗黙のうちに行われてきた。これらの「暗黙の了解」をすべて引き締めたのである。以降、中国政府は驚異的なスピードで暗号資産関連の規制強化を推し進め、9月には関連セクターの取締完了を報告するに至る。
規制を強める中国とは対照的に、南米・エルサルバドルはビットコインを米ドルに並ぶ法定通貨に採用するなど、一気に活用を推し進めた国もある。実際に同国では2021年9月からビットコインの法定通貨化が実現している。
2021年10月には米国の暗号資産関連事業者にとって悲願とされてきたETF申請がSEC(米国証券取引委員会)の初の承認を受ける。米ETF大手プロシェアーズによる米国初のビットコイン先物ETFがニューヨーク証券取引所に上場されると、初日出来高で1,000億円を突破。年末にかけてマーケットをけん引する材料となった。
2022年2月にはロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が始まったことでエネルギーや農産物の価格を幅広く押し上げ、世界的なインフレを加速している。この際、「インフレヘッジとしての暗号資産」「地政学的リスク回避のための暗号資産」という2つのシナリオが再強化されるかに思われたが、それ以上に急加速するインフレへの引き締めが金融マーケット全体に大きく影響した。
加えて2022年5月に生じたステーブルコインUST関連の騒動をきっかけにバブル的な価格高騰は収束を迎え、現在の時価総額は2021年12月の4割程度になっている。
とはいえ、こうした市場の沈静化は業界の健全な発展を促す側面もある。EUでは包括的な暗号資産(仮想通貨)規制法案「MiCA」が承認され域内での規制整備が進み、米国でも大統領令に基づいて戦略的な調査・検討が進んでいる。
また、BNYメロンのような大手金融機関も暗号資産ビジネスに参入を進めており、一般の人々がアクセスする金融の世界と暗号資産の世界が統合されようとしている。
NFTを巡る動向
直近2年間のブロックチェーン業界で最も飛躍的な成長を遂げたのは「
NFT 」関連の取り組みだ。Chainanalysisのデータによると2020年に約300億円程度だった市場規模も2022年1月までに約1兆5,000億円(126億ドル)を超えたとされ、通年では6~7倍の成長を遂げている。
2020年末に米国プロバスケットボールリーグをテーマとするNFTサービス「NBA Top Shot」がブームとなったことをきっかけに、元ツイッター(Twitter)CEOのジャック・ドーシー氏や、現テスラ(Tesla)CEOのイーロン・マスクなどテック業界の有名人らがNFTに注目。デジタルアーティストBeepleのNFTアートが75億円で落札されたことで、NFTは世間の知るところとなった。
これらのNFTエコシステムをけん引するオープンシー(OpenSea)、ダッパーラボ(Dapper Labs)、アニモカ・ブランド(AnimocaBrands)が発表した資金調達も大型化の一途を辿り、一部はユニコーンレベルの企業評価額に達した。
国内外では、既存のIT企業の多くが成長するNFT産業への参入を発表し、2021年上半期にはGMOやLINE、楽天、メルカリなどの大手IT企業がこぞってNFTのマーケットプレイスについて発表し、2022年には多くがサービスをローンチしている。
NFTの領域ではIT事業者だけでなく、IPホルダーによる取り組みも活発だ。海外ではFOXやマーベルといった第一線のコンテンツホルダーが自社IPをNFT化した。国内でもスクエニや集英社らがNFT活用を立て続けに発表している。
NFTコレクション領域においては日本発コレクション「新星ギャルバース」が注目を浴びた。2022年4月14日、先行販売直後から人気は急上昇し、OpenSeaにて取引ランキングの世界オールカテゴリーで1位を獲得している。
一方、ネガティブなニュースも散見される。2022年3月にAxie InfinityのRoninネットワークから約765億円相当のイーサとUSCコインが流出、史上最大のハッキングとなった。ハッキングが明らかになった直後にはRonin Networkの暗号資産RONは約20%下落。エコシステム内の通貨であるAXSはハッキング発表以来20%を超え下落した。
Axie Infinityに代わり盛り上がりを見せた
STEPN は「Move to Earn」をキーワードとするヘルスケアアプリで、歩いた歩数に応じて暗号資産で報酬を得られる気軽さからサービスを急拡大したが、2022年5月の価格急落をきっかけに勢いを失している。
このように2021年から活発化したNFTのブームだが、「出せば売れる」「出せば注目される」という状況は過ぎ去りつつある。バブル的な盛り上がりが沈静化した今後のNFT活用では、いかに魅力的なコンテンツとユーザー体験をユーティリティとしてNFTに紐付け提供できるかが問われているといえよう。
ステーブルコイン・CBDCを巡る動向
2019年6月にメタ(旧・フェイスブック)が発表したLibra以降、
各国で活発化してきたステーブルコインと中銀デジタル通貨 (Central Bank Digital Currency:CBDC)の議論も見ておこう。
世界に先駆けてCBDCの実用化を推し進める中国では、デジタル人民元が実証実験段階から実用段階へと移行し利用が急拡大。2022年10月時点で取引額が1,000億元(約139億ドル)を突破した。
日本でも日本銀行が2021年4月に中央銀行デジタル通貨の実証実験を本格始動。現在は第2段階の「概念実証フェーズ2」へと移行している。
同時期にCBDCに関する研究を本格化させたBISやイングランド銀行など主要国の中央銀行の取り組みも進み、2022年9月にはイスラエル、ノルウェーとスウェーデンの中央銀行とCBDCとの合同実証実験開始が発表された。
米国でも、ドルのデジタル化を支援する米非営利団体「デジタルドル・プロジェクト」が発足し、サンドボックスプログラムが開始している。
一方で、民間発のステーブルコインについてはG20を中心に慎重論が強まっている。Libra以降の議論を通じて、ステーブルコインは銀行などの金融機関に相当する事業者の領分となることが国際合意となりつつあるようだ。
特に2022年5月に生じたUSTというステーブルコインを巡る一連のトラブルは規制当局の強い警戒をもたらしている。米ドルを裏付けに発行されたUSTやその担保資産であるLUNAで信用リスクが生じ取り付け騒ぎが
発生した ことをきっかけに、暗号資産市場全体が急速に冷え込んだ。
Libraプロジェクトが正式に終了したことやUST騒動でステーブルコインの信用リスクが顕在化したことを受けメタ のようなIT系メガベンチャーやテザー(Tether)のようなベンチャー企業からエスタブリッシュメントな金融業界へバトンが渡されつつある状況といえよう。
【次ページ】セキュリティトークンを巡る動向、ブロックチェーン活用全般、展望
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