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デジタル化の波が金融業界にも訪れ、新興勢力がけん引する「ネット経済」が勢いづいている。その旗手となるのがフィンテック企業だろう。既存の金融機関は事業成長を目指す上で、新興勢力とどうつきあっていけばいいのか。その鍵を握る存在となる「デジタルバンキング」を軸に国内外の状況を踏まえて、既存の金融機関とフィンテック企業との戦略的な協業関係を実現するためのポイントを、日本金融通信社 特別顧問 小俣 修一氏が解説する。
※本記事は、日本金融通信社が2022年2月3日(木)、4日(金)に開催予定の「
デジタルバンキング展(DBX2022)」の出席予定者に向けた
講演内容を基に再構成したものです。
金融機関が「他業種ネット連携」で注意すべき点
デジタルバンキングの時代では、クラウド/APIを軸に他業種とのネット連携が自由にできるシステム化が
求められている。小俣氏は「その基盤となるコアバンキングシステム自体をクラウド/API型に持っていくことが必要です。その上で、金融機関の機能やサービスをモジュール化して企業に提供する『BaaS』を経由した組み込み型金融(エンベッドファイナンス)の構築、つまり他業種ネット連携が重要となるのです」と説明する。
また、既存の金融機関が組み込み型金融を実現するには、フィンテック企業と戦略的な提携関係を持つことが必要不可欠だと説く。
では、どのようにフィンテック企業をパートナーとして選ぶべきなのか。ドイツの調査会社Statistaの調査によると、2021年に約2万6000社のフィンテック企業が世界にあるという。対して、日本ではFintech協会のベンチャー会員は160社にすぎない。また、米国の調査会社のCBインサイツの調査では、1,000億円以上企業評価価値があるユニコーン企業のうちフィンテック企業はグローバルで157社あり、その内、日本企業は2社のみだった。
世界のネオバンク、チャレンジャーバンクとしては約410社あるのに対し、日本ではチャレンジャーバンクとしては2021年に開業した「みんなの銀行」、2022年1月に開業した東京きらぼしFGのUI銀行、ネオバンクとしては、iBANKマーケティング(ふくおかフィナンシャルグループ)、BANKIT(新生銀行)があるが、世界では1%程度の存在感である。
小俣氏は「先行するグローバルへの視点が重要。グローバルでは伝統的金融機関とフィンテック企業が実現した戦略的『ネオバンク』が発展して、BaaSによるエンベデッドファイナンスとして進展してきた。戦略的なネオバンクとしてWise、Uberなどが挙げられる」と現状を説明する。
海外の主要なBaaS基盤提供事業者
小俣氏によると、ネオバンクの中には直接銀行免許保持行とつながるのではなく「金融サービス関連システム基盤業者(イネーブラー)」を利用するケースも
増えてきたという。
たとえば、米マルケタ(Marqeta)はイネーブラーとして、日本で言えば「出前館」のような「ドアダッシュ(DoorDash)」やスーパーで買い物をしてきてくれる「インスタカート(Instacart)」といった消費者向けサービスの仕組みとして「埋め込むための金融サービス」を提供している。さらに米国ではBaaSを提供するシナプス(Synapse)や
SoFi(ソーファイ)が買収した、支払い・銀行口座インフラを展開するガリレオ(GALILEO)もイネーブラーとして活躍し始めている。
イネーブラーが独自に銀行免許を持っていない場合、後方支援として銀行免許保持行(図ではChartered Bank)によってBaaS基盤を構築し、銀行業務の機能を他のサービスに提供している例もある。
また、フィンテック業者がBaaSの基盤を提供するのではなく、銀行が直接BaaS基盤を提供するケースもある。たとえば、米国ではクロスリバー(Cross River)銀行がアファームとに直接、BaaS基盤を提供。欧州では、フィドール銀行(Fidor)やビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)、ソラリス銀行(solaris)、スターリング銀行(Starling)なども自らBaaS基盤を提供している。
【次ページ】フィンテック企業との戦略的な協業関係のメリット