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  • 2021/11/25 掲載

米国不動産テック事情、AI活用の「理想的なサービス」が大失敗に終わったワケ

米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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2020年2月以降、全米各地で新型コロナウイルス流行に対応するための都市封鎖(ロックダウン)が断続的に実施される中、対面中心であった米国の住宅取引は、急速にオンライン化が進んだ。こうした中、不動産テック(住宅テック)において成功した手法と失敗したやり方が明らかになってきた。どのようなテクノロジーがどのような理由で成功し、また、どのサービスがどのような原因で失敗に終わったのか。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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米国の「未完の不動産テック革命」の様子を、在米ジャーナリストが伝える
(Photo/Getty Images)

米国では親和性が高い、テックと不動産

 マイホームの購入は、米国人にとって人生の大きな決断の1つだ。多くの人にとり、家族と長く住む予定の家屋や地域の住みやすさを現地に出掛けて自らの目で確認し、ローンを組んで数十年のタイムスパンで支払いを行う投資を、信頼できる不動産仲介業者や金融機関に頼りながら対面で行うことは「常識」であった。そのため米住宅ビジネスは、対面中心の現場主義に支配されていたのである。

 とはいえ、米国には住宅購入を投資として捉える文化があるため、物件の情報閲覧から権利証書の引き渡しに至るまで、不動産取引の流れやプロセスのすべては客観的かつ公正な全国標準によって可視化されていた。このような一連の標準化・透明化されたプロセスが、住宅売買のデジタル化・イノベーションと大いに親和性があったのは事実だ。

 たとえば、全米規模の不動産業者向け物件情報システムであるMLS(Multiple Listing Service)には、物件の価格と過去の価格推移、広さ、間取り、写真、登記情報、公図、所有者名、修繕履歴、売買履歴、学区、周辺の人口データ、災害リスクや税務情報など不動産に関する客観的なありとあらゆるデータが登録されており、買い手にも公開されている。

 加えて、客観的な鑑定基準に基づく適正な価格査定を行う不動産鑑定士、業界基準に基づき建物の調査診断・報告書を作成する住宅診断士、物件代金の入金を確認後、買い主には物件占有権を引き渡し、売り主には代金を送金する登記会社(タイトルカンパニー)、買い主と売り主の間に入って中立的な立場で決済のプロセスを監視し、売買の安全性を高めるエスクロー会社などが、不動産取引のそれぞれの段階で透明かつ安心な取引を保障している。

 こうした標準化と可視化を基礎に、売買・投資の新しい仕組みを生み出し、売り手・買い手や不動産業界が抱える課題を解決し、従来の商習慣を変えようとする仕組みである不動産テックは、コロナ以前から米国では盛んであったのだ。

崩れた「対面でなければ」の現場主義

 パンデミック前から、物件閲覧ポータルのジロー(Zillow)やレッドフィン(Redfin)の業績は伸びており、内見を依頼する前にこれらのWebサイトで、MLSデータや、住宅の写真・動画を確かめることは当たり前となっていた。これは、ジローやレッドフィンが、地元に来ている買い手しか見られなかった物件を、テクノロジーにより全米・全世界で遠隔バーチャル内見ができるようにしたからだ。

 さらに、大手金融機関と提携して住宅ローンの借り入れ手続きをオンライン化するブレンド(Blend)、登記やエスクローのデジタル化を手掛けるドーマ(Doma)、火災や洪水などのリスクや居住者のニーズに合わせてAIが最適な保険商品を割引価格で提案するヒッポ(Hippo)、賃貸住宅経営の自動化テクノロジーのスマートレント(SmartRent)なども、コロナ禍前から顧客層を拡大させていた。

 そこを襲ったコロナによるロックダウンは、現地内見、対面のローン借り入れや登記手続きを極端に難しくした。そうした中、以前であれば中国などの遠方の外国人投資家しか決断しなかった「内見や訪問なしの住宅購入」が、地元米国人の買い手の間でも日常的に行われるようになった。

 たとえば、ジローの2020年7月のアンケート調査によれば、回答者の36%が内見抜きの住宅購入に前向きであった。また、米国で都市封鎖が盛んであった2020年11月と12月にレッドフィンのサービスを利用した顧客の63%は、物件に対するオファーを内見なしに行っている。その多くは、デジタルネイティブのミレニアム世代であった。

 加えて、2021年2月のレッドフィンのポータルにおける3D物件バーチャルツアーの閲覧は、前年同月比で500%も伸びている。ジローにおいても、ページ閲覧訪問数が2019年の15億回から、2020年には96億回へと急増した。買い手は、グーグルのストリートビューと同じ感覚で画面を上下左右にコントロールしながら、自分の見たい方向や細部をチェックでき、家の雰囲気や大きさ、部屋の配置などが事前に把握可能になる。

 一方、通常は対面が要求される公証人の取引文書認証についても、29州がロックダウンに対応して非対面のオンライン証明を許可し、関係者が会した書類へのサインが必要となる不動産取引が、ドキュサイン(DocuSign)など電子署名大手のサービス利用で完結するようになった。

 このようにして、家の購入には対面・現地訪問が必須であるとの「神話」は、コロナ禍におけるロックダウンで、あっけなく崩壊した。さらに、テクノロジー採用により、買い手が仲介業者に支払う各種手数料や、取引に必要な所要時間も減少傾向にある。

 住宅ローンの組成についても、米フリーダム・モーゲージのスタンリー・ミドルマン最高経営責任者(CEO)は、「業界は(信用審査から電子署名まで)すべてをバーチャルで行える態勢を整えているのだが、規制がテクノロジーを押しとどめている」と述べ、連邦政府や州当局の規制緩和さえ進めば、住宅購入のプロセスがさらにオンライン化するとの見解を示した。

 2021年春先からの感染率低下やワクチン接種の進行による「コロナ明け」で再び内見が可能となったため、多くの業者や顧客が現場対面に戻っているが、自在に現地訪問・バーチャル内見・対面取引・電子取引を組み合わせる「オムニチャンネル」による住宅購入は、後戻りできないレベルで定着したように見える。

【次ページ】なぜジローの「革命」は大失敗に終わってしまったのか

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