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日本におけるマネーローンダリング及びテロ資金供与対策の実効性を評価する、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)による第四次対日相互審査の結果が8月30日に公表された。2019年の秋に受審した本件は、既に素案は関係者間で知れ渡っており、今更感が漂うものの、ようやく書面で確認することができた。指摘内容は想定の範囲内ではあるが、突きつけられた課題を改めて整理し、今後の当局の対応方針を探ることとしよう。
審査結果はどう受け止めるべきなのか?
2019年の秋に実施された対日相互審査は、本来2020年2月頃に結果が公表される予定であったが、コロナ禍で審査団が「来日できず終い」となり(他国も同様に遅延)、日本政府に結果素案が伝達されたのは2020年秋口であった。この時点では正式な通知ではないこともあって対外公表はされず、政府内で事後対策立案の基礎材料に資するに留まっていた。
ただし、正式公表前に民間事業者に早期対策を促す必要があった。そこで金融庁は、金融機関向けに本年2月にはガイドラインの改訂版を公表するとともに、翌3月にはFAQの公表に踏み切った経緯がある。つまり、この2つのドキュメントを確認すれば、審査結果がどうだったのかが
我々も類推できた わけだ。したがって、審査結果が公表された直後からメディアを賑わしたものの、実際は「伝わっていた内容が文書で示された」というのが正直なところだ。
審査結果は「重点フォローアップ国」とされ、英国やイタリア、スペインなどの通常フォローアップ国には届かず、という結果となった。重点フォローアップ国には、米国やカナダ、オーストラリア、中国、韓国といった国々が並んでいる。外形的には「落第」となるのだろうが、日本政府では「及第点」との認識だろう。
「及第点」の背景を説明しておこう。審査では「法令整備の観点で40項目」さらに「実効性審査(IO)の観点で11項目」の計51項目が問われた。このうち前者の法令整備40項目のうち第三次審査で指摘された項目の多くで前回を上回る評価を得た。
政府はこれを以て及第点という理解に至っている。ただし、後者のIOでは3項目を除いた大半で改善を求められている。IOは第三次審査時にはない新設項目であることから、「従前指摘されてきた項目は半ばクリアしたが、最近の国際ルールには適応できていない」といった受け止め方が正確だろう。
FATF審査、金融機関への「4つの指摘」
FATF審査は金融機関のみならず、他業種も審査対象となっている。たとえば、NPO法人の一部ではテロ組織による悪用の可能性が指摘されている。同様に、不動産業や弁護士の一角でもこの問題への認識不足が指摘された。
なお、金融機関にフォーカスすると、大きく4つが指摘された。以下でそれぞれ解説しよう。
一部の小規模金融機関における理解不足
法人等の悪用防止 (主に実質的支配者の確認)
口座の継続的調査(法人、個人とも)
国内PEPs(重要な公的地位を有する者)への対応
小規模金融機関における「理解不足」
大規模銀行など一定数の金融機関は、マネーロンダリング防止(AML: anti-money laundering)とテロ資金供与対策(CFT: combating the financing of terrorism)のリスクについて適切な理解をしているものの、一部の小規模金融機関において、理解が不足している、との指摘があった。
筆者らが知る限り、金融機関の中には「外為さえやめれば問題ないだろう」といった誤った理解を示す金融機関が存在していたことも事実である。これは金融庁が外為を中心にガイドラインの初版を記述していたことが要因の1つになっている。もちろん、外為取引を停止したとしても、FATFの審査項目には内為取引も含まれており、問題の解決とはならないのだ。
こうした中、信金業界では業界横断的に対応の底上げを図ることを目的に、信金共同センターが中心となり、内部管理態勢や口座開設手続き、監査手順などを標準化し、支援システムとともに参加信用金庫に提供している。情報やリソース不足に悩む小規模金融機関における「対応の在り方」の一例として注目すべきであろう。
【次ページ】懸念が示された実質的支配者の捕捉