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- 2022/04/20 掲載
金融庁の狙いは? 「2022年版マネロン・テロ資金供与対策ガイド」3つの変更点
大野博堂の金融最前線(47)
「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインFAQ」の変更点は?
2021年8月に結果が公表されたFATFの第四次対日相互審査から、金融業界では、マネー・ロンダリングおよびテロ資金供与対策(AML/CFT)へより一層の対応が求められてきた。この状況の中、金融庁は2022年3月30日に「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」(以下、FAQ)の改訂版を新たに公表した。前回のバージョンからどのような変更が加えられたのか。
変更点の中でより注目すべき「リスクに応じた簡素な顧客管理(SDD)の適用要件の明確化」「『本人確認済み』や『疑わしい取引の審査対象』の要件の緩和」「定期的な顧客情報の更新手法の明確化」について次章から詳説する。
リスクに応じた簡素な顧客管理(SDD)の適用要件の明確化
金融庁マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(以下、ガイドライン)では、金融機関などに対し、リスクベース・アプローチに基づくマネロン対策を求めている。リスクベース・アプローチとは、自らが特定・評価したリスクに応じて対応の優先順位付けを行い、リスクの高い顧客・取引には強固な低減措置を、リスクの低い先には簡素な対応を行うなど、リスクに対する管理強度やリソースの配分、顧客利便性への影響などを最適化する考え方である。
今回改訂されたFAQでは、このリスクベース・アプローチに基づく顧客管理を実効化するために重要なポイントとなる「リスクの低い顧客などに対する簡素な顧客管理(SDD)」の適用要件が改めて明確化された。
具体的には、以下の6条件を充足する場合にSDDの適用が可能である点が強調され、また、従来のFAQで6条件と並列的に紹介されていた「生活口座」「1年以上の不稼働口座」「国、地方公共団体」などは、結果としてSDDの対象となる想定例(「生活口座」)、またはSDD対象ではないものの定期的な情報更新までは不要な先(「1年以上の不稼働口座」、「国、地方公共団体」)として整理された。
- 法人及び営業性個人の口座は対象外であること
- 全ての顧客に対して、具体的・客観的な根拠に基づき、商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客属性等に対するマネロン・テロ資金供与リスクの評価結果を総合して顧客リスク評価を実施し、低リスク先顧客の中からSDD対象顧客を選定すること
- 定期・随時に有効性が検証されている取引モニタリングを活用して、SDD対象口座の動きが把握され、不正取引等が的確に検知されていること
- SDD対象顧客については、本人確認済みであること
- SDD対象顧客は、直近1年間において、捜査機関等からの外部照会、疑わしい取引の届出及び口座凍結依頼を受けた実績がないこと
- SDD対象顧客についても、取引時確認等を実施し、顧客情報が更新された場合には、顧客リスク評価を見直した上で、必要な顧客管理措置を講ずること
従来のFAQでも6条件は示されていたものの、先述の通り、これらと並列的に「生活口座」「1年以上の不稼働口座」などが例示されていた。このため金融機関などでは、SDDの対象顧客を具体化する際に6条件にこれらの例を加味し、たとえば生活口座以外をSDD対象外とする対応や、国や地方公共団体をSDD対象とする検討がなされていた。
筆者らの経験では、特に「生活口座」について、その定義付けや特定の手法に悩む金融機関などが多く、SDDの検討・実装が遅れる要因になっている可能性もうかがえた。
今回、金融庁がSDDの必要要件を6条件のみと明確に定義したことにより、金融機関などにおけるSDD対象顧客の特定と当該顧客に対する対応の簡素化が進むことが想定される。
「本人確認済み」や「疑わしい取引の審査対象」の要件の緩和
さらに、6条件のうち「4.SDD 対象顧客については、本人確認済みであること」に関して、1990年10月1日以降に取引を開始した顧客(1990年6月の大蔵省通達に基づく対応を実施している顧客)についても、当時の規制などに沿った手続が確認されれば、「本人確認済み」と整理することが可能であることが明記された。加えて、「5.SDD対象顧客は、直近1年間において、捜査機関などからの外部照会、疑わしい取引の届出及び口座凍結依頼を受けた実績がないこと」について従来、直近1年間における疑わしい取引の届出の「審査対象先」もSDD対象から除外する既定となっていたが、この内容が削除された。
【次ページ】定期的な顧客情報の更新手法の明確化
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