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コロナ禍において、リモートワークが普及したことも影響し、紙の書類で契約を取り交わすのではなく、電子契約を活用する企業が増えています。身近になりつつある電子契約ですが、まだまだ不安という方も多いのではないでしょうか。本稿では、弁護士の浅井 孝夫氏に、電子契約に関してしばしば寄せられる疑問・質問に答える形で、その基本を解説いただきました。電子契約のメリットや法的有効性、また導入ステップや主要ベンダーまで網羅します。
電子契約の基本、紙との違いは?
電子契約とは、「契約する双方の約束事を電子ファイルで記録して保存すること」です。
電子契約はすでに我々の生活に馴染んでいます。たとえばオンラインショッピング。売買契約を電子ファイルで記録しているので、これも電子契約に当たります。オンラインの動画配信サービスの利用、スマホアプリの利用における利用約款への同意なども該当します。こうしてみると、すでに電子契約を利用しているという方がほとんどではないでしょうか。
紙の契約書との違いは、電子ファイルで記録するか、紙に記録するかという記録メディアの違いのみです。紙の書類でも電子契約でも、効力には変わりはありません。ちなみに、契約は口頭であっても、双方の合意の下に契約されたのであれば成立しますし、有効性も本来変わりありません。ただし、口頭の場合は記憶に頼ることになるので、契約を巡って揉め事が発生したときに、どちらの主張が正しいのか分からなくなります。そこで、特にビジネスや金銭がからむような契約は、記録に残すような形が定着するようになったのです。
電子契約のメリットは?
電子契約のメリットは、大きく2つあります。1つがコスト削減です。紙の契約書を交わす場合にかかる次のようなコストが電子契約では削減できます。
・印紙税
紙の契約書の場合は、契約の種類と金額に応じて印紙税が課税され、契約する双方で負担しますが、電子契約では印紙税が課税されません。そのため、電子契約に切り替えるだけで、企業規模によっては数千万円単位でのコスト削減につながることがあります。
・書類の保管コスト
日本では、決算書類などの会計帳簿、税務証憑の保管期間が定められています。保管期間は書類によって異なりますが、7~10年の保管が義務付けられており、税務調査があれば必要に応じて提示できるように管理しておく必要があります。企業規模が大きいほど、物理的な倉庫など維持にかかるコストが高くなりますが、電子契約は電子データで管理できるので、データをクラウド、あるいは物理的な記録メディアに保存するだけなので、コストを低く抑えられます。
・書類の取り交わしにかかるコスト
書類を他社とやり取りするための郵送料、封筒代、印刷代など、ひとつひとつは小さいですが、積み重なると無視できないコストになります。電子契約なら、これらのコストに加え、やり取りするための人件費も削減できます
こうしたコスト削減に加え、もう1つのメリットが、契約に関わるプロセスを効率化できることです。
承認フローに複数人の決裁者がいる場合、全員が確認するまでに時間がかかりますし、紙の場合は書類の受け渡しのための時間がかかります。休暇や出張、多忙などの理由で承認フローが途中で止まって、決裁が下りるまでに数日~数週間かかることもあります。電子契約であれば、承認フローもオンラインでできるので、決裁者がどこにいてもPCとネットワーク環境があれば承認できますし、誰のところでフローが止まっているかも可視化できます。
環境が整えばどこでも契約のプロセスを進められるという点は、特にコロナ禍においてリモートワークが増えたことで、注目されています。
電子署名と電子サインはどう違う?
契約においては、内容が改ざんされていないこと、契約者本人が契約していることの2点が重要です。紙の契約書では、印鑑がこの2つを担保するものとして運用されてきました。電子契約でも、この2点をカバーする仕組みが用意されており、それが「電子署名」と「電子サイン」で、さまざまなベンダーがソリューションとして提供しています。
電子サインは、契約内容の合意を示すために、電子的にサインや印鑑など可視的なしるしを残す仕組みです。契約のやり取りの中で、電子メールアドレス、従業員ID、SMS認証、パスワードなどの認証方式を組み合わせて、本人確認を行います。ほとんどの電子サービスで、データへのアクセスログなどを確認できるので、誰がいつ契約したのかが分かりますし、契約後に改ざんがないことも保証します。
電子サインよりもさらに本人確認の程度、セキュリティ、安全性を高めた手法が電子署名です。デジタル署名と呼ぶこともあります。電子署名では通常、本人確認の上、認証局によって発行された電子証明書を利用します。電子契約をする際に、電子ファイルに電子証明書を加えて、電子署名とすることで本人性を保証します。また、電子ファイルと電子証明書をあわせて計算処理し、ユニークな値(ハッシュ値)を算出し、契約者双方が同じハッシュ値をもっていることで、取り交わした文書データに改ざんがないことを担保します。
電子サインは認印のようなもの、本人確認の上で発行される電子証明書を使った電子署名は、印鑑登録が必要な実印のようなものとイメージすると分かりやすいでしょう。
ただ、電子証明書は契約相手も電子証明書の取得が必要になります。電子サインであれば、ID/パスワードなどで本人認証ができるので、相手方は特別な負担なく利用できます。選び方としては、利便性と安全性、それぞれをどれだけ考慮するかということになります。
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