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  • 2020/06/25 掲載

フィンテック先進国の「AI×データ施策」とは、“規制と革新”を両立させる方法

金融庁の報告書を解説

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金融庁はこの6月、「主要国における金融デジタライゼーションに関する施策動向調査」と題する報告書を公開した。金融庁はここ数年毎年「デジタル」関連のレポートを展開しており、施策を推進してきた。一方デジタライゼーションが金融当局の想定を上回る速度で展開しつつあり、金融機関などによるAIやクラウドといった革新的技術を活用した新たな金融サービスが生まれている。本稿では報告書の内容の要点を解説する。
執筆:フリーランスライター吉澤亨史、構成:編集部 山田竜司

執筆:フリーランスライター吉澤亨史、構成:編集部 山田竜司

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フィンテック先進国のどのように“規制と革新”を両立させているのか
(Photo/Getty Images)

イノベーション、レグテック推進における各国当局の違い

 金融庁は、「各国の官民によるデジタライゼーションに関する戦略や金融規制当局の中長期的なビジョンを把握することが、今後日本において金融デジタライゼーションの推進に極めて重要である」という認識から、報告書を公開している。

 報告書では、フィンテックに積極的に取り組む米国や英国、EU、ドイツ、フランス、オーストラリア、シンガポールの状況を、デジタライゼーションとビジョンの観点から調査している。調査は文献により行い、一部の事項については調査を委託したNTTデータ経営研究所が補完している。報告書は120ページあるため、本稿では「全体のまとめ」を補完する形で解説を進める。

 「全体のまとめ」では、調査結果から各国当局において見られるイノベーションおよびレグテック(規制:Regulationと技術:Technologyを組み合わせた造語)推進上の特徴や工夫、取り組みを行っているテーマの方向性を記載。各国の「差異」について、「それぞれのポジションの違いにより生じる」としている。

 各国とも「イノベーションとレグテック」を推進するべく組織を統合し、戦略や目的を共通のものとしている。ただし、当局の性格に応じて、「フィンテックなどの産業振興としてのイノベーション推進を担っているケース」と、「基本的には規制監督機関として推進を担っているケース」がある。

 報告書では、目的と対象企業を軸としたマトリクスを作成している。これを見ると、英国の金融行為監督機構(Financial Conduct Authority:FCA)は「金融サービス市場における競争の促進」が目的の1つとして大きな割合を占めていることが特徴である。当初からイノベーションの推進に軸足を置いており、そこにレグテックの取り組みを取り入れた形だ。

 オーストラリア証券投資委員会(ASIC)もFCAと同様の取り組みであるが、対象企業が新興のフィンテック企業に集中していることが特徴だ。

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各国金融規制当局のポジショニング
(出典:金融庁 主要国における金融デジタライゼーションに関する施策動向調査 )

 米国の通貨監督庁(OCC)および消費者金融保護局(CFPB)は、イノベーションを生かしながら、エンドユーザーへの安全なサービスを提供することに焦点を当てている。OCCは、既存金融機関とフィンテック企業などとのパートナーシップが重要であるとして「責任のあるイノベーション施策」で強調しており、イノベーションと規制監督のバランスを取り、融合する方向にあるとしている。

 一方、シンガポール金融管理局(MAS)やFCAの対極に位置づけられるのが、ドイツ連邦金融監督庁(BaFin)である。BaFinは産業振興のミッションを負っておらず、自らの規制監督業務のデジタル化を中心に取り組みを進めている。自らのデジタライゼーション戦略を策定し、デジタル時代における規制の枠組みの課題の把握や、自身の監督業務のデジタル化に集中している。

フィンテックに関する組織・体制面での各国当局の工夫とは

 組織や体制面で各国当局をみると、ほぼすべての規制当局で「イノベーション・ハブ」や「イノベーション・オフィス」といったデジタライゼーション対応を担う専門部署が設置されていた。ただし、その所属部門はそれぞれ差異がみられた。

 たとえば、英国FCAでは監督を担う「スーパービジョン」部署ではなく、競争政策を担当する「ストラテジー&コンペティション」部門に設置されている。当初は専門部署と監督部署間の連携が図られていなかったが、連携の必要性は認識されていると見られる。

 シンガポールのMASでは、専門部署が「マーケット&デベロップメント」の配下に設置されており、組織図ではスーパービジョン部署との連携はみられないものの、新たな技術を使用した事業化の推進を目的としたサンドボックス制度を通じて連携しているとみられる。

 米国のOCCでは、「オフィス オブ イノベーション」を所管するCIO(チーフイノベーションオフィサー)は、政策策定と監督業務を所管するCOO(チーフオペレーションオフィサー)のレポートラインにあり、イノベーションの取り組みと政策、監督業務の連携を図れるよう工夫している。

 CFPBでは、オフィス オブ イノベーションは長官の直下に設置され、副長官が所管しており、他のセクションと連携しやすいよう工夫している。ドイツのBaFinでも、イノベーションを担当する「DivisionSR 3」は長官(プレジデント)直下に配置し、他のセクションと連携しやすいよう配慮している。

 各国の差異は組織上の立て付けに現れており、それは目的の違いと考えられる。英国やシンガポールは産業振興を目的としており、米国やドイツは自身の規制監督や政策を重視している。その中間にオーストラリアが位置するような関係となる。

 ただし、目的や専門部署の程度に違いはあっても、組織全体においてコーディネーターの機能を果たす点では、すべての規制当局に共通している。なお、オーストラリアのASICでは、経験豊富なシニアスタッフを配置し、専門的なアドバイスによりイノベーションと規制監督の両面で効果的な融合を目指している。

【次ページ】“フィンテック先進国”の「AI×データ」への施策とは
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