- 2025/01/18 掲載
日銀「超重要点」は「合格」、1月利上げがわかる3つの注目点(2/2)
賃金動向と市場反応、利上げ判断の鍵
(2)は、利上げを判断する際の超重要要素である賃金について、氷見野副総裁が合格と判定したことがうかがえる。特に支店長会議における定性的な情報は、今回重要であろう。植田総裁は、利上げを見送った12月の金融政策決定会合後の記者会見で「賃金動向についてもう少し情報が必要」と繰り返し言及していた。その情報に支店長会議における報告が含まれていたことは自明であり、日銀内部でプレ春闘と位置付けられていた可能性が高い。
記者会見で「春闘の結果が判明するまで利上げを待つのか?」という趣旨の質問に対して、総裁は「(春闘の手前で)耳に入ってくる情報」もあるため必ずしも待つ必要はない、と回答していた。支店長会議の情報を基に1月の利上げを決定しても何ら齟齬(そご)は生じない。なお、氷見野副総裁は「各種アンケート調査でも、賃上げ予定先比率や賃上げ率は、前年並みないし前年を上回る結果が多いようです」と言及していたが、筆者の知る限り前年を上回るものは多いとは言えない。
(3)は、やや深読みが過ぎるかもしれないが、金融市場(OIS)が織り込む1月の利上げ確率(1/6-1/10)が40~50%前後で推移するなど、利上げの織り込み度合いがさほど高まっていないことに問題意識を持った発言なのかもしれない(14日時点で60%超に上昇)。利上げの織り込み度合いを高めたいという含意があったかは不明だが、世界同時株安のきっかけとなってしまった2024年7月31日と同様の事態を回避したい思惑はあるだろう。
利上げによる家計への影響は? 個人消費は増えるのか?
トランプ次期大統領の政策運営や春闘の結果を見極めるという点では3月が合理的であることから、1月か3月の2択という状況に変わりはないものの、「空白期間」や円安など諸点に鑑みれば1月のほうが妥当な選択肢に思える。ここまでは短期的な金融政策の予想であった。ここからは、もう少し長い目で利上げの行方を占ってみたい。今回、筆者が注目するのは「利上げによって家計は潤うのか、そして個人消費は増えるのか」という点だ。
一般的に、利上げは景気を減速させ、物価・賃金の上昇率を抑制する金融政策であるが、日本においては金融緩和で景気が加速したという明確な証左がなく、賃金も物価も目立った変化が観察されてこなかった経緯があるため、利上げが景気を本当に下押しするかは議論の余地がある。
利上げによって家計の金利収支が好転する可能性があることに注目したい。まず2022年末時点における家計の金利収支を大まかに確認すると、受取金利は約4兆円、支払金利は約5兆円、収支は約1兆円の赤字となっている(国民経済計算ベース)。金利が存在していた1992年に家計が受け取った金利は40兆円近くあり、収支は10兆円を超える大幅な黒字であった。
それが長期に及ぶ低金利政策によって受取金利が漸減し、1990年代後半以降は一貫して赤字となり、現在に至っている。次に家計が保有する金融資産残高(国民経済計算ベース)を確認すると、2022年末時点で約2,030兆円あり、その内の1,142兆円を現預金が占めている。
一方で金融負債の大半を占める借り入れは365兆円に過ぎず、家計は大幅な純金融資産を有していることがわかる。単純に、資産と負債に適用される金利が1%ポイント上昇すれば、収支は8兆円弱改善することになる。もちろん現実には、政策金利と預金金利が完全に連動することはないので、この数値は過大であることに注意が必要だが、極端な前提を置かない限り家計の金利収支は改善すると考えられる。
家計の金融資産が高齢者層に偏在している現状を踏まえると、利上げの恩恵は高齢者に集中する。全体にどれくらいの貢献があるかは不明確であるが、受取金利の増加を「預金通帳」などで実感すれば、高齢者を中心にマインドが改善し、個人消費が底堅さを増す可能性はあるだろう。その場合、日銀が利上げを継続する可能性が高まる。賃金と物価が現在のような伸びを保てば、政策金利が1%を超えることも想定される。
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