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  • 2023/03/28 掲載

グリーンウォッシュ対策に必須の「ESGデータ」、検討すべき 「リスクと対策」

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ESGデータが重要な判断指標となるにつれ、その品質のばらつきや整合性の欠如が課題として挙げられるようになってきました。市場が複雑化し、投資家などからも、商品性やファイナンスの効果について「説明の裏付け」や担保を求める声も聞かれています。特に懸念が高まりつつあるのが、さもサステナビリティへの配慮があるかのようにふるまう「グリーンウォッシュ」です。本稿ではグリーンウォッシュ対策に有効な「ESGデータの現在地」について解説します。
執筆:EYストラテジー・アンド・コンサルティング アソシエートパートナー 北野 利幸

執筆:EYストラテジー・アンド・コンサルティング アソシエートパートナー 北野 利幸

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社  金融サービスリスクマネジメント  アソシエートパートナー 北野 利幸 金融リスクの計量化やモデル・データ分析、ESG/気候変動、健全性規制、再生・破綻処理などの関連規制等に関するコンサルティングサービスを大手金融機関に提供すると同時に、会計監査支援としての時価検証業務を統括している。金融機関向けコンサルティングにおける、サステナビリティ関連領域のリーダー。

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グリーンウォッシュ対策の機運の高まりとESGデータのリスク
(Photo/Shutterstock.com)

金融機関のサステナビリティ経営とESGデータの品質問題

 企業やプロジェクトの財務情報を利用した伝統的な投融資意思決定に対して、非財務情報も活用し、ESG(環境・社会・ガバナンス)要素の達成を直接的・間接的に志向する、ESG投資やサステナブルファイナンスが広がっています。

 金融市場全体に比べればまだまだ規模が小さく黎明(れいめい)期にあるとはいえ、試行錯誤でさまざまな取引に取り組まれる中、適切なリスク認識や判断のための分析に必要となるESGデータの重要性が高まっています。その用途はさまざまですが、例を挙げると表1のようになります。

ESG・サステナビリティ関連データのさまざまな用途
  • 社内会議体報告(サステナビリティ委員会、ESG委員会など)
  • サステナビリティ経営の推進目標や経営者の報酬決定におけるKPI
  • 非財務情報/サステナビリティに関する報告
  • サステナブルファイナンス関連の金融商品の商品性に関する開示
  • ESGファンド、インパクトファイナンスの投資家向け報告
  • 脱炭素目標(ネットゼロ目標)の設定とモニタリング
  • 気候変動リスク分析、シナリオ分析
  • ESGデューディリジェンス/取引先、調達先などサードパーティ管理
  • ESGインテグレーション(投融資審査、引受審査)
  • 投融資先、保険引受先のモニタリング、顧客エンゲージメント
表1:ESGデータの用途の例

 ことデータ分析に関しては、「ゴミを入れればゴミが出てくる(garbage in, garbage out)」という良く知られた言葉があります。意味のある分析結果を得るためには、意味のあるデータが必要であり、サステナビリティ関連業務の現場では、関連性、客観性、比較可能性が一定水準に確保された、扱いやすい標準化されたデータセットが必要となっています。

 しかしながら現実には、ESGデータと一口に言っても、さまざまな情報源、たとえば企業のディスクロージャー、ニュース記事、国際機関や政府の発表、データベンダー、ESG評価機関・格付会社などからの、断片的なデータの寄せ集めになってしまっているのが現状です。

 ESGデータがサステナビリティ経営における重要な判断に用いられるようになるにつれ、その品質のばらつきや整合性の欠如が課題として浮き彫りになっています。

 市場が複雑化し、投資家などステークホルダーの側からも、商品性の説明やファイナンスの効果の具体的な裏付けが求められる中、説明内容の信ぴょう性や比較可能性への懸念が聞かれるようになっています。

 とりわけ、現状と変わらないか悪影響のほうが大きくなるにもかかわらず、あたかもサステナビリティへの配慮があるかのような体裁をとる、いわゆるグリーンウォッシュに対する目が厳しくなってきています。これにつれて、ESGデータの問題は、金融機関のレピュテーションなど、経営に与える影響が無視できない重要なものとなってきていると言えるでしょう。

グリーンウォッシュに対する当局の対応

 グリーンウォッシュの懸念が高まり、ESG・サステナビリティに関する情報の品質へ関心が集まる中、当局も規制監督を強化しています。

 EUでは、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)(注1)にて、当地の金融市場参加者(資産運用会社、保険会社、年金基金など)およびフィナンシャルアドバイザーに対し、企業レベル・金融商品レベル双方の開示要件(注2)を定めました。

 本規則では、サステナビリティリスクの投資意思決定への統合方法や、リターンに与える影響の開示が求められると同時に、環境・社会要員を促進する投資(第8条)、目的達成型のインパクト投資(第9条)を類型化、それぞれ目的を達成し得る方法の説明を要求しています。規制の詳細が明らかになるにつれ、該当するファンドへの投資額や新規設定額など、市場の動向に少なからぬ影響を与えているところです。

注1:Sustainable Finance Disclosure Regulation
注2:European Commission, “sustainability‐related disclosures in the financial services sector”, December 2019(2022年2月27日アクセス)

 日本では、2022年12月に、ESGを投資戦略の主要な要素として掲げる公募ファンド(投資信託)の運用会社(投資信託委託会社)を主な対象として、「市場の信頼性を確保し、ESG投資の促進及び持続可能な社会構築を図る」ことを目的とした、金融庁の監督指針の改正案(注3)が発表されました。本改正案では、運用会社の組織体制の整備や、ファンド運用の際にESG評価・データ提供機関の組織体制、評価対象・手法とその目的などを理解することに加え、開示に関する一連の留意事項(表2)が示されており、より品質の高い情報によるサステナビリティの裏付けが求められる内容となっています。

注3:金融庁、「『金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針』の一部改正(案)(新旧対照表)」2022年12月(2023年2月6日アクセス)

留意事項 内容
(1)顧客誤認の防止 ESG投信に該当しない投信の名称又は愛称に、ESGに関連する用語が含まれないこと、投資対象選定の一要素としてしかESGを考慮しない投信においては、交付目論見書における記載がESG投信であると誤認させるような誇張した説明になっていないこと
(2)投資戦略 交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に以下の事項を記載
  • 投資対象選定の主要な要素となるESGの具体的内容
  • 運用プロセスにおけるESGの勘案方法、その制約要因やリスク
  • (インパクト創出目的のESG投信の場合)インパクトの内容、目標とする指標、方法論を含むその評価・達成方法
  • ESG投資戦略に関連するスチュワードシップ方針の内容
(3)ポートフォリオ構成 ESGを主要な要素として選定する投資対象への投資や、投資戦略上主要な要素となるESG評価指標について目標や目安を設定している場合は、比率その他の計数を交付目論見書に記載。こうした計数を設定していない場合はその理由の説明
(4)参照指数 特定のESG指数への連動を目指す場合、交付目論見書に参照指数におけるESGの勘案方法を記載
(5)定期開示 交付運用報告書・交付目論見書の「運用実績」に以下の事項を記載
  • 投資対象の選定について、目標や目安に対する実際の投資比率
  • ESG評価指標の目標や目安の達成状況
  • インパクト創出目的の投信について、インパクトの達成状況
  • スチュワードシップ方針に沿って実施した行動
(6)外部委託 委託先に対する適切なデューディリジェンスや運用状況の確認、外部委託先の運用における上記②~⑤についての開示もしくは開示困難な理由の記載
表2:金融庁の監督指針改定案における、ESGファンドの開示に係る留意事項(注4)

注4:金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針 新旧対照表(案)」2022年12月(2023年2月6日アクセス)を基にEY作成

 SFDRと方向性を同じくして、本改正案でも、一般的なESGファンドにおける、運用プロセスにおけるESG評価・勘案方法の説明や、インパクト創出目的のファンドにおける、インパクトの内容、目標指標とその評価・達成方法ならびに達成状況の開示などが念頭におかれています。

 本監督指針は、投資信託委託業を営む限定された金融機関に向けたものかもしれませんが、ファンドの投資対象は多様な金融商品にわたり、最終的には投資対象である企業やプロジェクトのESG要因の把握までたどり着きます。

 企業側のサステナビリティ関連開示の拡充や法定開示化の方向性もあり、ESGデータ、特に運用プロセスへの統合やインパクトの適切な把握を実現できるデータインフラの必要性は、本邦においても継続的に高まるものと考えられます。

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ESGデータにまつわるリスクの所在と対策を次ページで解説
【次ページ】ESGデータにまつわるリスクの所在と対策
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