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- 2023/02/21 掲載
なぜ高島屋は「絶対に内製」で金融アプリを開発したのか、ネオバンク化の理由
コロナ禍で顕在化した「資産運用ニーズ」
現在高島屋グループでは、百貨店業と商業開発業に次ぐ事業成長の第三の柱として「金融業」に力を入れており、2020年からは店頭でお客さまの資産形成や資産承継に関するご相談を承る「ファイナンシャルカウンター事業」を始めています。おかげさまで、幅広い年齢層の方々にご利用いただいており、その多くはもともと百貨店でお買い物をされていて、その延長線上で窓口に立ち寄っていただいたお客さまが占めています。したがって私たちも、普段の百貨店での接客と同じような心構えでお客さまと接することを心掛けています。
一方、このサービスはコロナ禍での開始となり、外出の大幅な規制や自粛が行われましたので、店頭の窓口になかなかお越しいただけない時期が長く続いたことも事実です。そこで店頭窓口に代わるサービスの1つとして金融に関するWebセミナーを開催したところ、予想をはるかに上回る数のお客さまにご参加いただきました。やはり皆様、ご自宅で長期間過ごされる中で、将来への不安から資産運用について関心を高めた方が増えてきたのではないかと感じています。
実際のところ、外出規制が緩和されると店頭窓口での相談の予約が一斉に入って、実に多くのお客さまが個別の相談にいらっしゃいました。しかもそのほとんどが、それまで一度も金融商品を購入されたことがないお客さまなのです。
そういう方々にとって、金融機関の窓口で投資の相談をするのはやはりハードルが高く感じられますが、普段から買い物に訪れている高島屋であれば気後れすることなく気軽に相談できるのだと思います。デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流もあり顧客対応もデジタル化が進んでいるので、個人が気軽に相談できる窓口を設けている金融機関は減っている印象があります。高島屋のような存在は今や希少なのかもしれません。
加えて2022年6月からは、スマホアプリを通じて銀行サービスを提供する「高島屋ネオバンク」というサービスも始めました。こちらは店頭の窓口とは違い、これまで高島屋とはあまりお付き合いのなかった若い方々にも多く利用いただいています。このサービスを機に、新たな顧客層に高島屋のことをぜひ知っていただきたいと考えています。
高島屋金融事業のDX推進「3つのポイント」
高島屋ネオバンクのような取り組みを進めるためには、やはりデジタルの力が不可欠です。具体的な施策を検討するに当たっては次の3つのポイントを重視しています。1つ目は、お客さまのニーズや利便性を第一に考えるということです。高島屋ではもともと積立サービスである「タカシマヤ友の会」を長らく運営しています。対面の手続きを要するなどお客さまにお手間を取らせてしまう場面も多く、コロナ禍以降は来店が厳しくなったこともあり「デジタルの仕組みを通じて来店せずにサービスを利用したい」という声が寄せられていました。こうした声にお応えしてお客さまの不便をなくしたいという狙いがあり、「タカシマヤ友の会」のデジタル版「スゴ積み(高島屋のスゴい積み立て)」を高島屋ネオバンクアプリに搭載しました。また1つの口座で買い物も証券投資も行えるため、より一層お客さまの利便性を高めることができます。
2つ目のポイントは、コストの削減です。これまでは各店舗の窓口に十分な数の従業員を配置してお客さまのご相談を承ることを心掛けてきたのですが、対面よりデジタルの接点を好むお客さまも一定数いらっしゃるため、過度に多くの従業員を配置することはムダなコストにつながります。そこでデジタル化によってこうした人的コストを削減することで、ひいてはお客さまに提供するサービスの品質向上により多くのリソースを割けるようになります。
そして3つ目のポイントが、従業員のITリテラシーの向上です。当然のことながら、高島屋ネオバンクのようなサービスをお客さまにご案内するためには、まず自社の従業員がサービスについてしっかり熟知する必要があります。しかし従業員の中にはITリテラシーが決して高くない方もいますから、全従業員がサービスの内容や価値を理解できるよう、社内のITリテラシー教育をしっかり施すことが重要になってきます。
これらの点に留意しながら、まずは既存サービスのデジタル化によるサービス品質向上や利便性向上に取り組み始めています。もちろんデータの分析・活用のような先進的な取り組みも始めてはいますが、弊社のようにリアル店舗を中心としたビジネスは、EC事業者などと比べてお客さまデータの取得・活用の仕組みが複雑になりがちです。現時点ではまずお客さまを理解するためのデータをさまざまなチャネルを通じて収集しているところで、本格的な仕組みづくりはこれからという段階ですね。
【次ページ】「組込型金融」「ネオバンク」の業態は今後ますます増えていく
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