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ローソン銀行は、2018年9月に開業した新しい銀行だ。ATM運営会社の事業を承継したため、ATMネットワークを軸に、ローソン経済圏へ新たな金融サービスを展開しようとしている。流通系・コンビニ系の銀行の中でも後発となるローソン銀行は、どのような戦略と勝算を持って金融業界へ挑むのか。2016年、ローソン銀行の設立準備会社にCFOとして参画し、2021年6月に代表取締役社長へ就任した鶴田直樹氏に聞いた。
ローソン銀行の事業と経営計画・目標について
ローソン銀行は2018年の秋口にスタートしましたが、ATM運営会社のローソン・エイティエム・ネットワークスが行っていた事業を承継し、それを核に作られた会社です。ローソンの子会社として流通と金融の両面を持つ立ち位置を生かした銀行を創ることで、さらに幅広く金融サービスを展開していこうと目論んでいました。
スタート直後は、ATMの事業と、預金を始めとする銀行として備えるべきお客さまへのサービスや、クレジットカード、ローソンの加盟店向けの売上金などのATMへの入金サービスを展開していきました。それに加えて、将来への種まきという意味でデジタルを意識した新しいサービスをリリースしてきました。
やはりお客さまの資産をお預かりする業種ということで、厳格なルールの中でしっかり銀行を運営していくことが最重要課題でした。ローソンのグループ会社から承継したATM事業基盤をしっかり構築し、運営するとともに、新たに始めた銀行業務においても、法令も踏まえたオペレーションやコンプライアンス態勢を構築し、そしてビジネス面では早期の単年度黒字確保と、安定的に収益が上がることも重要です。開業3年目の業績も含めて、今は1つ目標をクリアしたと捉えています。
その3年目が終わりに近づいた2021年6月下旬に私は社長に就任し、次のフェーズに向けてバトンを引き継いだ形です。そこで考えなければならないのは、お客さまに役立つサービスをどうやって広げていくか。方向性は大きく2つあり、ATMをさらに時代に合わせて進化させていくこと、それから新しい金融サービスを生み出していくことです。
一言でいうと「新しいリテールバンク」を目指しているわけですが、従来型の商業銀行と我々が勝負する上では、ローソンに来てくださるお客さまと、そこから広がる経済圏を意識したユニークなサービスを展開していくことが大事だと考えています。コンビニエンスストア会社の子会社ですから、「必要なときに必要なサービスを提供する」といった発想ですね。我々が新しい銀行として何ができるかということも意識しなくてはならないので、すごくチャレンジングです。
事業面ではATM事業の強化に取り組みました。JAバンクATMの当行ATMへの代替設置、ATMでの海外送金カードの取り扱い開始、あるいはローソンの加盟店向けに提供していた売上金などのATMへの入金サービスを一般の事業会社のお客さまにも広げるといったことを進めました。
加えて、決済アプリへチャージできるサービスも進化させてきました。これらはATMを使っていただく機会を増やすためのサービスで、利用を促進するための工夫に注力しています。
もう1つは、「新しいリテールバンク」ということを意識して、ローソンの経済圏に新しい金融サービスを提供することを考えています。ただ、これは検討を進めている段階で、まだ申し上げられる段階ではないのですけれども。
それから、先ほどお話ししたように、開業以降の3年間は安定的に運営していくことに何よりも重きを置いていました。しかし次のステップに進むという意味で、組織としての有り様を変えていかなくてはと考えています。それは、社員のマインドセットだったり、コミュニケーションの仕方だったり、新たにどのような方にローソン銀行に加わっていただきたいか、といったところもこれまでとは違ってくるだろうという意味です。
そのようなことを、社長になってからの2年弱で、取り組んできたところです。
変化の激しい事業環境に対応するため社長がITを兼務
2022年4月に代表取締役社長に加えIT戦略統括も担うことになりました。社長が特定の部門を兼務するということは、一般的にはあまりないケースだと思いますが、これも今お話しした組織の見直しの一環という面があります。
また、銀行はITが果たす役割が非常に大きいですから、事業環境の変化が激しい中で、ITもそれに対応してスピード感や開発の仕方、マインドセットを変えることが何よりも大事です。こうした変化は、非連続な変化ですので、あるべき姿に持っていく過程を自分がリードしていきたいと考え、兼務しています。
キャッシュレスの流れの中、コンビニATMの勝ち筋は
我々はATMを時代に合わせて進化させていくことを事業の柱にしてきました。一方、QRコード決済の普及や、資金移動業者に向けた法律の整備、たとえばデジタルマネーでの給与払いなどが国を挙げて推進されている現状があります。
このようなキャッシュレスの潮流が従来型の「ATM取引」に影響することは間違いありません。銀行化する前のATMの取引規模からすると、今後右肩上がりで伸びるということは考えにくくなっています。
ただ一方で、ATM事業を営んでいる実感としては、ATMに対するニーズは「底堅い」という感覚も持っています。2020年の新型コロナ流行の初期は、とにかく外出を控える動きが一般的だったのでATM利用も影響を受けたのですが、現在は相応にニーズが戻ってきているのです。
ATMにはこの先にも、デジタルマネーを現金化する、あるいは現金をデジタル化するという「タッチポイント」の役割があるでしょう。2020年9月にスタートしたATMから現金でペイサービスにチャージする「ATMチャージ」の取引も、非常に伸びています。従来型の生活スタイルの方や、銀行口座とデジタルの決済を紐付けることに抵抗があるという感覚をお持ちの方もいるでしょう。一方で、銀行口座からペイサービスに直接チャージしたいというニーズのお客さまもいらっしゃいますので、そちらにも対応するため、「即時口座決済サービス」も同年6月にスタートしました。2022年12月末現在、ご利用いただけるサービスは5つ、提携金融機関は当行含め18行となっておりますので、お客さまのトランザクションの拡大に力を入れています。
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