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2023年4月、日本銀行の新総裁が着任し、新体制が発足される。そこで焦点に当たるのが、イールドカーブ・コントロール(YCC)をはじめとした金融政策を修正するかどうかだ。現在は、通常の中央銀行であれば長期金利を直接に操作しないが、日銀はそれを行い、金利を抑制している。これが、円安をはじめ、日本経済にさまざまな歪みをもたらしている。では、この金融政策を修正した場合、どうなるのか。今回は、金利上昇がもたらす問題点を解説する。
重要課題「イールドカーブ」の基本
2023年4月に発足予定の新体制がまず決めるべき重要課題は、金融緩和政策を継続するかどうかだ。仮に金利が引き上げられれば、さまざまな経済活動に大きな影響が及ぶ。住宅ローンの金利も上昇するので、多くの人々の生活に直接の影響が生じる。
しかし、金利の問題は専門的で分かりにくい。以下ではこれについて、できるだけ分かりやすく説明することとしよう。
議論の対象となっているのは、イールドカーブだ。これは、さまざまな期間の金利を縦軸に、満期までの期間を横軸にとって示したものだ。イールドカーブは、通常は右上がりの曲線になる。つまり、長期金利ほど高くなる。
ここで注意したいのは、イールドカーブではすべての期間の金利について、年利で表示していることだ。つまり、ここでいう金利は、借入期間全体の金利支払総額を、借入額で割ったものではない。年間の金利支払額を、借入額で割ったものだ。だから長期でも短期でも、金利が同じ水準になってもおかしくはない。つまり、イールドカーブが水平になってもおかしくない。
ところが実際には、すでに述べたように正常な経済において、イールドカーブは右上がりだ。つまり、長期金利は短期金利より高い。なぜこうなるのか。この理由は簡単ではないのだが、金融政策を理解する上で重要な意味を持っているので、以下に説明しよう
長期金利が短期金利より高くなる仕組み
10年間の貸借契約を考えよう。つぎの2つの契約を考える。第1は一括契約で、10年間を10年物金利で一括して契約する。第2は分割契約で、最初の5年間は現在の5年物金利で契約し、残りの5年間は5年の先物金利で契約する。
どちらの契約でも、利子支払額は現時点において確定する(不確実性がない)。したがって、裁定取引でなければ両者の利子支払額は同額にならなければならない。
問題は、現在の5年物金利と先物金利の関係だ。借り手のリスク回避要請が貸し手のそれより強く、かつ、5年後の5年物金利が現在より低くならないと予想されているのであれば、先物金利は5年後の5年物金利の期待値より高いことを示すことができる。
その理由は、直感的に言えば、次の通りだ。
分割契約で先物契約をしなければ、5年後からの利子支払いは5年物金利の期待値に対応するものとなる。リスク回避要請が強いなら、それより支払いが多くなっても、先物契約して支払額を固定する、ということだ。
したがって、先に述べた無裁定条件式から、現在の10年物金利は5年物金利より高いという関係が導き出せる。つまり、長期金利は短期金利より高くなる。つまり、イールドカーブは右上がりになるのだ。
なお、貸し手の立場からは、以上とは逆の結果が導かれるが、彼らのリスク回避要請は、借り手ほどは強くないと考えられる。やや不正確であるが、以上のことをまとめて極めて大ざっぱに言えば、次のようなことだ。
借り手としては将来、金利が高騰して金利支払いが増えることを避けたい。そのためには、多少金利の支払額が多くても、現在の段階で10年間の取引を長期金利によって確定してしまったほうが良いということである。以上の説明は分かりにくいかもしれないが、詳細の説明は拙著『金融政策の死』(日本経済新聞社、2014年)、第2章4を参照されたい。
【次ページ】金利上昇が招く「2つの問題」
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