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八十二銀行は、地域商社事業と電力事業を行うための企業「八十二Link Nagano」を立ち上げた。先進的な事業展開を進める同社だが、金融機関が非金融事業に乗り出す際にどのようなことを考慮したのか。また、地銀が非金融事業を手がける勝算とは。八十二Link Naganoの代表取締役社長 神谷 健一氏に話を聞いた。
地銀が非金融事業に参入する際に考えるべきこと
八十二銀行が2022年10月に設立した八十二Link Naganoは、地域商社事業と電力事業を行う企業である。銀行法の改正によって、銀行が行える業務の規制が緩和されたことを受け、地域のニーズに応えるという趣旨も踏まえて事業をスタートした。まず、それぞれの事業の詳細を見ていこう。
地域商社事業のメインになるのは、海外販路の開拓である。地銀が立ち上げた地域商社はほかにもあるが、海外マーケットを視野に入れているのは、現時点では八十二Link Naganoのみだ。八十二Link Naganoの設立に関わり、代表取締役社長を務める神谷健一氏は、地域商社事業の内容について次のように語る。
「我々は基本的に海外での販路開拓を行い、要望がある場合に、国内の販路開拓も行うスタンスです。非金融事業に参入する際に考慮しなければいけないのは、弊行の取引先の企業とバッティングしないことです。『地域のために事業を立ち上げる』と言いながら、地域に根付く取引先のビジネスの領域に入り、売り上げを奪うようなことになってしまったら、本末転倒です」(神谷氏)
神谷氏によると、長野県は縦に長い県であり、関東圏・中京圏・近畿圏それぞれとアクセスが良いため、国内の販路に関する相談も多いとのことだ。しかし、それらの商業圏との間でビジネスを展開している県内の事業者も数多くいるため、相対的に参入の優先順位は低いとの判断を下したという。
「地域商社事業を検討している段階で、海外の販路を開拓している事業者がいなかったことも、大きな要因になりました。弊行は香港支店のほかに、上海・シンガポール・タイに駐在事務所があり、そのほかにトレーニーの派遣先の海外提携銀行として、ベトナム・インドネシアなどがあります。支店・拠点からの情報や人脈が蓄積されており、それらのアセットを活用できることが強みになるのではないか、と考えています」(神谷氏)
地域商社事業で銀行業とは真逆のやり方を選択
八十二Link Naganoの地域商社事業で想定しているのは、長野県産の農産物、食料加工品、伝統工芸品などの消費財中心の取り扱いである。販路の開拓・拡大とともに、EC関連事業、コンサルティング事業も展開していく予定とのことだ。銀行とはまったく違う事業を行うのは簡単なことではないだろう。八十二Link Nagano設立から1カ月ほど。現時点での課題の克服方法について、神谷氏に聞いた。
「まだ課題を乗り越えていません。なぜならば、本格的な営業活動の展開に至っていないからです。現状は、バイヤーやサプライヤーの開拓、そのための業務フローの構築、社内体制の整備の段階です。銀行のようにある程度事前にきっちり決めてから実行するのではなく、走りながら、同時進行で決定・実行しています。乗り越える山がどこにあるのか、あるいはどうやって乗り越えるのか、試行錯誤しながら走っているところです」(神谷氏)
八十二銀行の情報や人脈の蓄積があるものの、まったくノウハウがない中でのスタートなのだ。人員は八十二銀行のメンバー中心だが、海外での展開という特殊性があるため、商社からの出向もあるという。
「立ち上げに当たっては、大手総合商社の丸紅から1人出向していただきました。ただし大手総合商社のビジネスの規模は大きいため、商社のノウハウがそのまま当てはまるわけではありません。局面ごとに知見を活用していますが、事業自体は初めての取り組みであり、実際にやってみないとわからないことだらけです」(神谷氏)
【次ページ】地銀が電力事業を手がける3つの強み
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