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- 2024/04/25 掲載
SuicaやPASMOがあるのに? 鉄道の「キャッシュレス・チケットレス」が複雑化するワケ
連載:小林拓矢の鉄道トレンド最前線
キャッシュレスの王者「交通系ICカード」
鉄道におけるチケットレスを推進しているのは、交通系ICカードである。近年では、スマートフォンに内蔵された交通系ICカードを使用する人も増えており、関東圏では改札機にスマートフォンをタッチする人も多く見られる。たとえば、アプリから使用した金額や乗車した区間を確認でき、定期券も券売機に並ばずに購入できる。さらに、Suicaなら普通列車グリーン車の券も手元で入手可能となり、JR東日本を中心とした新幹線のチケットレスサービスとの相性もいい。
また、交通系ICカードは、市中のさまざまな商店で取り扱うことができる決済手段だ。コンビニチェーンではどこでも使え、安めの飲食チェーンでもほとんどで導入されている。少なくとも、1円玉を使用するようなチェーン店でキャッシュレス決済に対応していないところは珍しいのではないだろうか。
交通系ICカードは、日本のキャッシュレスをけん引し、公共交通のチケットレス化を一気に推し進めた。しかしそれでも、キャッシュレス・チケットレスの手段を複数にしようという動きは進んでいる。
乗車券・クーポン一体型に便利な「QRコード」
QRコードは交通系ICカードのように改札機で入出場を記録し、料金を引き去るということはできない。さらに、QRコード決済の処理速度は、交通系ICカードよりもずっと遅く、混雑時の改札機で人が滞留することは容易に想像できる。それでも、鉄道会社はあえてQRコードを導入しようとしているのだが、どんな場合に「鉄道」と「QRコード」が容易に結びつくのだろうか。
南海電気鉄道では、QRコードを利用した乗車券「南海デジタルきっぷ」を発売している。スマートフォンにインストールしたアプリにQRコードを表示させ、専用の改札機にかざすことで、鉄道に乗ることが可能だ。
そのほかにも、往復乗車券やフリー乗車券、クーポンなどを一体にして商品を発売している場合もある。東急電鉄では、デジタルチケットサービス「Q SKIP」で「東急線ワンデーパス」などの乗り放題きっぷを発売している。
乗り放題のパスなどに、QRコードが使用される傾向がある。鉄道の場合、QRコードでは「決済」をするのではなく、あらかじめ別手段で購入した上で、チケットとして「表示」させることで、紙のチケットをなくすという方向でいるのだ。
私鉄などの改札では、QRコード読み取り部が目につくようになった。JR東日本でも、自動改札機の更新が進み、QRコード読み取り部を備えた改札機がさまざまなところに並んでいる。
2024年度以降、JR東日本はSuicaを利用していない人でも駅の券売機や窓口を経由しないで乗車できるように、QRコードを使用したサービスを順次開始するという。この年度の下期に東北エリアに導入、その後エリアを拡大する予定だ。
さらに、JR東日本では、「えきねっと」で乗車券類を予約・購入する際にQRコードで乗車することを選択できるようになり、えきねっとアプリに表示させたQRコードを自動改札機にかざし、新幹線も在来線もシームレスに利用できるようにするという。
自動改札機のある駅では改札機にQRコードをかざし、ない駅ではアプリ上で自ら入出場の処理をする。無人駅から乗って、途中に新幹線や特急、無人駅で降りるという際には、活躍しそうなシステムである。
JR東日本は、「みどりの窓口」を減らす一方、こういったチケットレスを充実させようとしている。ほかにも、改札機やSuicaをセンターサーバのシステムに置き換えることを進めており、そのシステムの中でQRコードが一種の「鍵」のようなものになるのだろう。
スマートフォンにQRコードを表示させ、それを「鍵」のようなものにする。自動改札機で交通系ICカードのように決済はできないけれども、状況によっては使い勝手のいいものになる。それが、鉄道でのQRコード決済の最適な使用法といえる。 【次ページ】インバウンド対策に必須? クレカ「タッチ決済」
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