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- 2023/06/15 掲載
年間2兆円のコスト削れる?ミスミ吉田氏が語る、今すぐ改善すべき“ある製造工程”の問題
Seizo Trend創刊記念インタビュー
日本の製造業の本当の実力
現在、国内のGDPは約600兆円であり、そのうち約2割を占める重要な基幹産業が製造業です。2019年版ものづくり白書によれば、製品・部材の世界市場規模を見ると、シェア6割以上の日本製品が270個もあります。これは米国と比べて2倍、中国の5倍の数字です。あらゆるメディアで「日本の製造業衰退論」が飛び交っていますが、この数字を見れば、今なお日本の製造業の国際競争力の高さがわかります。
ただし、労働生産性に関して言えば、諸外国に劣ります。1990年代初頭の日本の生産性は非常に高い水準にありましたが、2018年のデータを見ると、OECD加盟国の中で半分以下の16位までに落ちてしまっています。労働生産性は投下したリソース(ヒト・モノ・カネ)に対してどれだけ売上を出せたかという指標であり、この経営上の効率の悪さが日本の製造業が抱える大きな課題となっているのです。
この労働生産性の課題は、日本全体が抱える社会課題と密接に結びついている課題でもあります。日本の生産年齢人口が減少傾向にある中、製造業に限らず、どのような企業であっても採用が難しく、人が足りない状況が続いていますが、それに拍車をかけるように、2021年から働き方改革による労働時間の規制が強化されました。
特に、働き方改革は日本の製造業の9割を占める中小企業に大きな影響を与えています。これまで中小企業は、自社のリソースを超えるボリュームの発注であっても、社員が残業しなんとか翌朝にまで納品する、といった働き方によりビジネスを成立させてきた部分があります。しかし、働き方改革による残業規制により、そうした方法が通用しなくなり、現在は無理な仕事は断っている状況にあります。
一方、先ほどお話したとおり、人材を採用したくても、人材不足で人が採れない事情もあり、経営が悪化しているのです。「ヒト不足」と「時間不足」という課題の解決抜きには、この状況から脱することはできないのです。
「Japan as No.1」時代と何が違う? 認識すべき日本の現状
1980年代までは「Japan as No.1」と言われ、日本の製造業が非常に強かった時代があります。当時は働き手が多く、労働力も豊富でした。1人当たりの労働就業時間も「ブラック企業」という言葉すらなかった時代であり、とにかく日本全体が猛烈に働いていたのです。そうした当時の日本企業の労働時間を図示すると、縦軸に労働力(生産年齢人口)、横軸(1人当たりの就業時間)を取った面積に相当します。これが日本の製造業における総労働時間であり、戦うための時間で、当時のモノ作り産業全体が使えた時間でした。
ところが2020年以降、労働力が減り、さらに1人当たりの就業時間も最適化されていき、総労働時間、すなわち戦うための時間(量)が激減している状況にあります。しかし、日本企業は、過去の成功体験がまだ根強く残っており、量を前提とした戦い方に固執している状況です。
こうした中、これから日本企業が戦っていくには、働く「量」の時代から「質」の時代への転換が必要です。全体の仕事量が少なくなる中で、いかに昔以上のアウトプットを出していくか。その課題を解決するには、労働生産性を劇的に変え効率化するしか道はありません。さらに言えば、“改善”のレベルでは間に合わず、改革レベルのテコ入れが必要なのです。
そこで製造業DXが必要になる、という議論になるのですが、ものづくりの流れを俯瞰して見てみると、“ある工程”が大きなボトルネックになっていることが分かります。この工程の問題を解決しなければ、劇的に生産性を改善することは難しいかもしれません。 【次ページ】製造DX、最大のボトルネックは“ある工程”と言える理由
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