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コロナ禍によるリモートワークの普及に伴い、「新しい日常」に対応する新しいシステムの構築が求められているが、銀行業界全体としては変革が順調に進んでいるとは言えない状況にある。銀行はどのようなあり方を目指しているのか。全銀協会長・三井住友銀行頭取CEOの高島誠氏が、現在の全銀協の取り組みとともに、手形や小切手、納付書を電子化するプロジェクトについて紹介した。
※本記事は、日本経済新聞と金融庁が2022年3月に主催した「FIN/SUM2022:Fintech Summit(フィンサム)」の講演内容を基に再構成したものです。
在宅勤務の増加が社会構造の変化をもたらしている理由
「新しい日常」とはコロナ禍によってもたらされた「これまでとは違う日常」を表している言葉である。「ニューノーマルの時代」「ウィズ・コロナ」といった表現と同じニュアンスと考えられる。全銀協会長・三井住友銀行頭取CEOの高島 誠氏はこのように語っている。
「昨日の常識が今日は通用しない、今日の常識が明日はもう通用しないという変化の早い時代で、私たちのビジネスと暮らしのあり方も、大きく変革しないといけないと考えています」(高島氏)
コロナ禍によるビジネスと暮らしの変化として特に顕著な特徴は、テレワークの導入が増えたこと、そして導入形態が変わってきた点である。総務省の統計によるテレワークの導入企業の割合を見ると、2019年が19.1%、2020年が20.2%、2021年が47.5%と、コロナ禍の影響で一挙に増えていることがわかる。
さらにテレワークの導入形態を見ると、2020年度までは営業活動などの外出時のモバイルワークやテレワークが主流であったのに対して、2021年度には在宅勤務の割合が大幅に増えている。高島氏は以下のように指摘している。
「在宅勤務の増加は働き方のみならず、ライフスタイルの変化をもたらし、ひいては社会構造そのものをもたらす可能性を秘めていると考えます」(高島氏)
デジタルテクノロジーの進展が社会構造の変化に与えた影響
社会構造の変化はすでに顕在化しつつある。東京都の人口の動きも、コロナ禍前とコロナ禍になってからでは大きく変わっているのだ。2020年度以降、東京都への転入者が減少して転出者が増加している傾向がある。2021年度の東京都への転入者は42万200人、東京都からの転出者は41万4700人であり、ほぼ拮抗している。
首都圏である神奈川県・埼玉県・千葉県が多いのは当然だが、増加率の高い県として鳥取県・長野県・高知県・山梨県などが挙げられている。東京一極集中という構図にも変化をもたらす可能性があると言える。
テレワークや在宅勤務の普及が、こうした東京の人口の動きの変化の要因になっているのは間違いない。高島氏はこう説明する。
「社会変革を支えているのが、デジタルテクノロジーの進展です。最もわかりやすい例がWeb会議の普及でしょう。かつてのリモート会議は、オンプレミス型のテレビ会議システムと専用機材を使用する方法が主流でした。しかしコロナ禍を契機として、クラウド型の会議システムが浸透しました」(高島氏)
確かにかつてのテレビ会議と呼ばれるものは、システムや機材が整っている社内の会議室などを使用して行われるケースが一般的だった。会社に出社して、海外の支社の担当者とテレビ会議をするため、使用される場所も限定されていたのだ。
Web会議はクラウドを活用するケースが多いため、場所の制約から解放されることになった。このことが社会の変革にも影響を与えていると考えられるだろう。
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