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ブロックチェーンの登場から10年以上が経ち、分散型金融(DeFi)の登場、非金融業からの金融業への参入が進んでいる。金融を取り巻く環境が大きく変貌しつつある中、規制当局である金融庁には、従来型の規制・監督のあり方にとらわれない新たな立ち向かい方が求められている。フィンテック室長 三浦知宏氏に、新時代の金融庁のあり方、展望について聞いた。
金融デジタライゼーションは道半ば、新たな課題にも対応
──注力されている「金融デジタライゼーション」について、これまでの取り組みの手応えをお教えください。
三浦知宏氏(以下、三浦氏):デジタル化は、本当にさまざまな側面から進んでいます。行政手続の電子化をはじめ、書面押印・対面手続の見直し、マイナンバーの預貯金口座への付番、キャッシュレス化などについては
お話した通りです。
また、金融サービス仲介業制度に関しても、実はオンラインでのユースケースをかなり意識して作った制度ですので、そういったものも含めると、デジタル化に向けて多岐にわたって取組みを進めてきたと思います。
しかし、これで十分かというと、ゴールはまだ先で、道半ばというのが正直な感想です。その意味するところは、今まさに審議会などで議論している
分散型金融システム(DeFi)への対応です。ほかにも、AIを用いた金融サービスの提供が進むほど、1つの傾向としてパーソナライゼーション、ないしはオーダーメイド化が進んでいくのではないかと考えています。
保険を例にすると、ウェアラブルデバイスで血圧や心拍数をリアルタイムに近い形で捕捉して、そこから読み取れる健康状態に応じてダイナミックに保険料が変わるような仕組みが考えられます。そういったパーソナライゼーションが進んだ時に、我々としてどのように監視・監督していけばよいのかという問題は、当然出てくると思っています。
重要な点なのでくり返しますが、デジタル化が進むことによって生じるアナログ下ではなかったリスクへの対応があります。システム障害やマネーロンダリングの対策と防止、(AML)/テロ資金供与対策(CFT)、サイバーセキュリティ対応などについてはより重視していかなくてはなりません。金融デジタライゼーションを考える時、そこまで含めたトータルで見ながら進めていくことが必要です。
──GAFAなどビッグテックの企業が金融ビジネスをスタートしていますが、こうした環境の変化をどのように捉えているのかお考えをお教えください。
三浦氏:GAFAに限らず、いわゆる“非金融”、つまり金融と非金融の垣根を越えた、サービスのプラットフォーム化という話で捉えています。プラットフォーム化の事例は着実に出てきていて、我々のFinTechサポートデスクでも、これに関する相談が少なからず来ているというのが実態です。
金融商品はそれ自体がなかなか差別化しにくい特質がありますし、金融業自体に免許や認可という縛りがあるため、商品の組成という点では、プラットフォームによって既存の金融機関の役割がそれほど大きく変わるようなことはないと思います。プラットフォーム化で大きく変わってくるのは、販売や勧誘といった顧客接点の部分でしょう。
利用者は今後、金融商品の提供元の金融機関の名前を意識せずに、それを取り扱っているプラットフォームのネームバリューやブランドへの信頼によって、投資したりお金を預けたりする発想になるかもしれません。そうなると、金融機関のレピュテーションリスクやブランドの影響力は、相対的に下がっていく可能性もあります。そのような環境で、既存の金融機関がどう生き残っていくのかについては注目する必要があるでしょう。
先ほどパーソナライゼーションの話をしましたが、ビッグデータを持つプラットフォームは当然そのデータを利用して、ユーザーに紹介する商品をパーソナライズしていくと思います。Amazonのリコメンドのようなものを想像してもらえばよいと思うのですが。
金融機関にとっては、そうした流れにいかにうまく乗るか、つまり、「顧客接点を持っているところが一番強くなる可能性が高い」ことを認識する必要があります。「自らの顧客接点を強化する」「顧客接点持っているプラットフォーマーといかにつながり、サービスの対象の裾野を広げることに注力する」などプラットフォームをいかにうまく利用するかが鍵になると思います。
また、そういった流れの延長線上にダイナミックプライシングのような話も必ず出てくるはずです。そこに対して、規制当局としてどう対応するかを我々は真剣に考えていかなくてはならないと思っています。
DeFiのようなイノベーションに対し議論規制一辺倒ではなく良くなる可能性を探る
──DeFiについてブロックチェーン・ガバナンス・イニシアチブ・ネットワーク(BGIN)を設立するなどされてきましたが現状の論点とお考えのことをお教えください。
三浦氏:金融庁での議論の方向性については、「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」から
レポートが出ているのでそちらに譲るとして、私からはBGINも含めた国際的な流れについてお話したいと思います。
もともと分散型金融が本格的に議論されたのは、2017年頃でした。当時はほぼビットコインを前提とした分散型金融システムが念頭にあったと思いますが、その議論には、政策当局だけでなく、金融機関やエンジニア、アカデミアなど多方面のステークホルダーが参加して議論すべきという考え方ができつつありました。
2019年、日本が議長国を務めたG20大阪サミットにおいて、分散型金融システムについてしっかりガバナンスをしていきましょう、技術者を含む幅広いステークホルダーとの対話を強化しましょうということを日本の側から提案し、合意されました。それを具体化するものとして作られたのが、BGINでした。
DeFiのガバナンスで一番の肝となるのは、規制対象となる主体が不明確だということです。これまで前提になっていた銀行や証券会社のような金融機関がいるわけではないため、規制しようにも誰に対して何をすればよいのか不明確で、従来型の規制や執行では対処できないという問題があります。
ただ一方で、いわゆるスマートコントラクトの技術を使えば、ある特定の状況になった場合に自動的に規制をかける自動執行のようなコンセプトもあります。うまく対応できれば、イノベーションを進めながら、同時に利用者保護も可能になる。そういう新たなアプローチの可能性も指摘されているんですね。
BGINでは、そういった既存のやり方にとらわれないアプローチについてさまざまな議論をしていて、2021年11月の上旬に初のレポートが出ました。その中で、DeFiのエコシステムの概要と、規制上の論点を分析した研究成果がまとめられています。
それによると、「現状は分散型といいながらも、実は中央集権的な側面もそれなりにある、実は影響力を持つ主体がそれなりにある。にもかかわらず、そこがしかるべき規制や監督を必ずしも受けていない曖昧な状況にあるが、今後どうなっていくのか」という議論がありました。
可能性としては2つあり、1つは、今のように“それなりに主体がある”状態からもっと分散化してしいく可能性と、もう1つは逆に元の中央集権的なシステムへ戻っていくという話もありました。後者であれば従来の規制・監督で対応すればいいわけですが、前者の場合は規制するのがより困難になるかもしれないということが示唆されています。
この論点は、一部のステークホルダーだけ集めて議論して解決できる話ではなく、広範なステークホルダー全体で議論していかなくてはいけないものです。ただ、実はステークホルダー同士の間では、誰が何をしているかが正確に理解されていなかったり、共通言語で話しているようでいて、ビジネスとアカデミアとエンジニアでは言葉の定義が実は微妙に違っていたりという状況があります。
この状況で、性善説や非合理的な期待に基づいて、“なんとなく”システムを運用してしまっている部分があるので、そこを合理的に整理していくことをファーストステップとしなければ、とは考えています。
──論点はまとまりつつあるのでしょうか。
三浦氏:やはりいろいろな話があって、日本だけでなく各国でも「DeFiに対する規制はこうあるべき」という確固としたものは恐らくまだないという認識です。そうした中で、我々も走りながら議論しているような状況ではあります。最終的にどういう結論になるかは今後の議論次第だと思いますし、絶対にこうすべきだという正解もないとは思います。
ただ、フィンテック室の立場として申し上げれば、規制しないことはもちろんよくないと思う半面、可能性を潰してしまうことはすべきではないとも思うのですね。
たとえば、先ほどお話ししたスマートコントラクトを活用した規制の自動執行のように、テクノロジーをうまく利用するようなアイデアもあるわけですから。あるいは、伝統的な金融システムではどうやっても取り除けなかったリスクが、ブロックチェーンのこの技術を前提とすれば、ある程度抑えられる──といったことがあるかもしれません。であれば、監督とか規制にもメリハリをつけられる可能性があります。
恐らく今後もさまざまな論点が出てくると思いますが、どちらかといえばイノベーションを推進していく我々フィンテック室としては、悪い人を取り締まっていく方向だけではなく、“良くなる可能性”をしっかりと、冷静に見ていきたい。そういう観点で、DeFiについてのリスクを検証すべく、実は我々も我々なりに、有識者の力を借りながら勉強会などをしているところなので、しっかり推移を見ていきたいと思っています。
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