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DeFi(分散型金融)や中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency:CBDC)などイノベーションの動向が注目される。日本は2018年1月のコインチェック事件を契機に、金融当局による暗号資産(仮想通貨)の規制を最も早く導入した国の1つとなったが、規制当局や暗号資産事業者はどのように規制とイノベーションのバランスをとればよいか、Coinbase General Managerの北澤 直 氏、マネックスグループ 執行役員の中川 陽 氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナーの河合 健 氏、シンガポール金融管理局 Deputy Directorのガブリエル・ヤン(Gabriel Yang)氏(モデレーター)が語った。
※本記事は、SOが2021年11月に主催したWorld FinTech Festival(WFF)の講演内容を基に再構成したものです。
日本は世界に先がけて「仮想通貨」の規制に取り組んだ
シンガポール金融管理局のガブリエル・ヤン氏はまず、日本における暗号資産の規制がどうなっているかを河合氏に問うた。アンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合氏は「2018年以降、最も重要な変化は、2020年5月に改正法が施行された資金決済法や金融商品取引法についてであり、セキュリティトークンを利用した取引や資金調達に関わる改正がなされた点だ」と説明した。
それまで暗号資産は「最も強い規制の対象」であったものの、この改正により「コインベースをはじめ、海外の多くの事業者が日本のマーケットに参入することを望む状況になっている」ということだ。この改正にからみ、デジタルデータに資産的価値を付与するNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)が日本でブームとなり、アニメやゲーム、デジタルアートなどの分野でも新たな経済圏が生まれる可能性がある。
河合氏は「アニメや漫画は日本人にとってなじみが深いため、NFTはスタートアップだけでなく、コンテンツホルダーも大きな興味を示している」と話した。一方、伝統的な金融機関においても、日本銀行が個人や企業を含む幅広い主体の利用を想定した「一般利用型CBDC」のPoC(概念実証)を始めており、今後の動向に注目したいと河合氏は述べた。
一方、マネックスグループの中川陽氏は、「この数年、暗号資産は冬の時代だった」と述べた。2018年1月のコインチェック事件以降、「私たちはビジネスの修正にフォーカスしてきた」と中川氏は述べる。
投資家を保護するために日本の暗号資産をどう規制すべきかが盛んにディスカッションされ、マーケットの回復の時期と合わせるように「2019年1月に暗号資産事業者のライセンスを取得し、私たちの事業は位置づけを新たにし、コンプライアンスの整った信頼できる企業に生まれ変わるべく取り組んでいるところだ」と話す。
その上で、「新しい金融サービスなどのイノベーションについては、規制当局とも協力して、コンプライアンスを強化し、投資家の需要に合致しているかを見極められるように」方針が明確になってきたという。
中川氏は「規制を遵守することには負担を伴うが、適切に守ることができればビジネスを前進させられる。規制当局とも、投資家にさらに面白い商品を提供することに関して生産的な会話ができるようになる」とし、規制が必ずしもイノベーションを妨げることにはならないとの見解を示した。
イノベーションを阻害しないカギは「業界との健全なコミュニケーション」
続いて、ヤン氏からイノベーションについて聞かれたコインベースの北澤 直氏は、「暗号資産はこれまでコミュニティや開発者がリードしてきた」とした。ここ数年間で「リーガルやファイナンスのバックグラウンドを持った人材が増えたことで、世界中から注目されるようになり、機関投資家や規制当局全体も関心を寄せている状況だ」という。
そして、グローバルで暗号資産への関心が高まると「暗号資産はどういうものか」「何がイノベーティブなのか」という疑問が集まる。そこで重要になるのが「プラットフォーム」だ。「ルールなしでは投資ができない。ルール設定の需要がある」と北澤氏は話す。その次にファイナンスの知識や、暗号資産に対する基本的な法的枠組みが必要になってくるということだ。
この点で日本は「第一人者だ」と北澤氏は話す。グローバルにオペレーションしたい企業は規制当局との間で、コンプライアンスを遵守してどう市場に参入したらよいか、オープンな議論ができているためだ。
この話を受け、ヤン氏は「規制の持つベネフィットが認識されている」と指摘した。しかしながら、規制とは本来、イノベーションの後に続くものだ。日本は「ファイナンシャルハブになるべく、暗号資産の規制に意欲的に取り組んできたものの、今後、規制当局としてどのような役割が求められるか」を河合氏に問うた。
河合氏は「デジタル通貨の領域では常に新しい動きが起きている」と述べた。どのように規制すべきかの議論も盛んだ。河合氏にとっても「保守的な日本で暗号資産に対する規制を世界で初めて導入したことは驚きだった」そうだが、確かに、適切なタイミングで規制が敷かれないと「新しい業界や、ビジネスの芽を摘むことになりかねない」ことは事実だ。
この点については「規制当局と事業者とのコミュニケーションに尽きるだろう」と河合氏は話す。業界はマーケットの状況について情報を提供する必要があるし、当局も、それを収集しなければならない。日本の金融庁はDeFiやNFTについても、「現在の状況やどんなビジネスの可能性があるかについて情報を得ようと積極的に働きかけている」という。新しいビジネスをどう規制するかについては「健全なコミュニケーションが、適切なタイミングを見極めるのに重要だ」と河合氏は述べた。
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