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国内フィンテック業界にも外資系企業の参入が進んでいる。今後、海外ベンダーとの協業ケースは増えていくと予想されるが、国内金融機関はどのように業務提携を進めていけば良いのだろうか。本記事では、島根銀行、デジタルバンキングツールを提供するシンガポール発のスタートアップMoneythor(マネーソー)、融資クラウドプラットフォームを提供するnCino(エヌシーノ)など、国内金融機関と海外ベンダーといった立場の異なる3社の業務提携の事例を紹介する。
執筆:鈴木雅矩、編集:ビジネス+IT編集部 中澤智弥
執筆:鈴木雅矩、編集:ビジネス+IT編集部 中澤智弥
※本記事は、2021年11月に開催されたWorld Fintech Festivalのセッション「ケーススタディ:海外企業と日系金融機関の協業について」の講演内容をもとに再構成したものです。一部の内容は現在と異なる場合があります。肩書は当時のものです。
島根銀行の事例:オープンレガシーとAPIシステムの開発
すでに国内では金融機関と海外ベンダーの提携が進んでいる。島根県の地銀として活動する島根銀行もその1つで、同行はAPIシステムの開発を行うイスラエルのオープンレガシージャパンとともに、APIの基盤構築を進めている。この協業の背景には、SBI証券との資本業務提携があった。
島根銀行 人事財務グループ付次世代バンキングシステム担当部長の小川隆治氏は、「当行は2019年9月にSBI証券さんと資本業務提携を行いました。この提携を機にキャッシュレス決済の実現に取り組みましたが、当行が使用していた勘定系メインフレームは大半の金融機関が使っているものとは異なるレガシーシステムで、SBI側システムとの接続に苦労していました」と話す。
この課題を解決するために、SBI証券から紹介されたのがオープンレガシーだった。
「日本の金融機関の文化として、過去に実績のないものは採用しづらい風潮があります。外資系企業のオープンレガシーの参画にあたってハードルはありましたが、社内調整を経て導入が決まりました」(小川氏)
プロジェクトは2019年末に始まり、PoC(概念実証)の接続テストから始まったという。開始から3カ月で接続テストが完了し、次いでイスラエルから開発メンバーが来日した。
そんな地方銀行と海外企業の協業にはどのような課題が発生したのだろうか。小川氏は「海外のベンダーとの提携では、コミュニケーションが問題になると考えていました。実際に我々も英語が分かる技術者をアサインしていましたが、プロジェクトが始まってみると、事前にベクトルをすり合わせたことが功を奏したのか、コミュニケーションで躓くことはなく、スムーズにプロジェクトを進められました」と語る。
プロジェクトの方向性が共有できていれば言語の壁は乗り越えられると話した小川氏。現にオープンレガシーのメンバー来日時には1週間の期間が設けられたが、半日あまりで接続に成功し、残る日程は次の機能実装の議論を進めたという。円滑に開発が進んでいる今回の協業だが、「協業を経て開発チームも得たものが大きい」と小川氏は話す。
「今まで島根銀行の内部では、国内の狭い枠の中でビジネスを考えてきました。今回の提携を経て、世の中には良い製品を持っている方がたくさんいらっしゃると認識でき、社内の価値観は変化しています。開発メンバーも新しいことにチャレンジでき、その実績やスキルが自信になってメンバーに良い影響を与えてくれています」(小川氏)
同行のシステムはまだ改修の最中だが、提携がもたらしたものは大きいと言えそうだ。
マネーソー事例:大垣共立銀行のスマホアプリ支援
ここまで日本の金融企業側の視点から海外ベンダーとの協業について紹介したが、他方で海外ベンダーサイドはどのように日本市場を開拓しているのだろうか。
金融機関向けソフトウェアとして、顧客にパーソナライズしたレコメンデーションを送るソフトウェアを提供しているマネーソー日本法人代表の米岡和希氏は、同社の日本進出をこう振り返る。
「私たちの日本進出の契機は、2017年に東京都が開催したフィンテックビジネスキャンプでした。ここで大手の金融機関とお話しすると反応が良く、日本進出を本格的に考えるきっかけになりました。私は日本進出が決まってから創業者に声をかけられ、以降は日本とシンガポールを行き来してマーケティングを行なっています」(米岡氏)
その後、同社は2019年にイノベーションプラットフォーム Plug and Play Japanのフィンテック部門に参加。2020年2月にはビジネスITソリューションを提供する日本ユニシスとパートナー契約を結んでいる。
「マネーソーを含め、私自身も日本の金融業界とコネクションがなく、まさしくゼロベースからのスタートでした。マーケティング戦略としては、先端技術の導入に積極的で、フィンテックに前向きな金融機関に焦点を絞って営業をかけています。加えて、同時並行でベンダーさんにもアプローチしてきました。日本の金融機関の特徴として、ベンダーへの依存度が非常に高いので、日本ユニシスさんのようなベンダーにもお声掛けをしたのです」(米岡氏)
金融機関とベンダーの双方向アプローチが実を結び、同社は2020年末に日本ユニシスを経由して岐阜県大垣に拠点を置く大垣共立銀行と契約を締結。2021年6月に顧客向けアプリとして、「LiFit(ライフィット)」をリリースしている。同社はこの事例のほかにも着々とシェアを広げているが、コロナ禍のピンチをチャンスに変えてきたという。
「2020年には感染拡大が広がり、私はひんぱんに日本へ行くことができなくなりました。逆境ではありましたが、一方で金融機関側にもリモート会議が広がり、遠方の企業と商談がしやすくなりました。この変化がシェアを広げられた一因になったと思います」(米岡氏)
同社はアクセラレータープログラムを活用しながら、ベンダーとネットワークを構築し、日本市場の開拓を進めてきた。海外企業がマーケティングを行う場合、直接的な顧客へリソースを割いてしまいがちだ。マネーソーのように外堀から埋めていく方法をとれば、マーケティングコストを抑えながら新規顧客を獲得できるかもしれない。
【次ページ】エヌシーノ事例:日本市場開拓に向けたVCとの関係構築