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  • 2021/09/06 掲載

日本版「ワクチンパスポート」に大きな課題、本人確認問題はもっと真剣に考えるべきだ

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

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コロナの感染拡大防止と経済活動再開を両立させることを期待して、ワクチン接種を証明する「ワクチンパスポート」の提示義務化が世界的な広がりを見せている。イタリアやフランスでは文化施設やカフェ、レストランを利用する際に提示が義務付けられた。しかし、ワクチンパスポートは紙のシステムでは実現できない。本人確認手段が不完全だからだ。マイナンバーカードを用いる仕組みは、原理的には可能だ。しかし、実際にはさまざまな問題がある。本人確認(KYC/e-KYC)の問題は、もっと真剣に考えられるべきだ。
執筆:野口 悠紀雄
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欧米ではワクチンパスポートが当たり前になりつつある

国内用ワクチンパスポートは、感染拡大防止と経済再開を両立させる

 ワクチン接種を証明する「ワクチンパスポート」を入国の際に求める国が、欧州を中心として広がっている。 これに対応して、日本でも接種証明書を渡航者用に発行している。

 ところで、新型コロナウイルスの感染拡大防止と経済活動の再開を両立させる手段として、ワクチンパスポートを国内でも用いている国がある。

 レストランや建物、あるいは集会や劇場の入場の際にワクチンパスポートを提出し、ワクチン接種を証明できる人だけが許される仕組みだ。

 イスラエルは早くから導入している。ヨーロッパでも、北欧諸国などを中心として導入が広がっている。

 日本でもこれを導入すべきだとの声が経済界からある。しかし、日本で導入できるだろうか?

ワクチン接種済証では、証明にならない

 国内でのワクチン接種証明には、ワクチンを接種した時の接種済証を使えばよいだろうとの意見がある。しかし、そういうわけにはいかない。

 問題は、接種済証を提示している人が、接種済証に記載されている人と同一人物であることを確認できるかどうかだ。運転免許証や旅券を持っている人であれば、それを一緒に提示することによって、確認できる。

 運転免許証等に記載してある住所、氏名等とワクチン接種済証に記載してある住所、氏名等が一致していること、運転免許証等に添付してある写真と本人の顔が同一人物であると認められることを確認すればよい。

 しかし、健康保険証でしか本人確認をできない人はどうか? この場合には、接種済証が提示している本人のものであるかどうかは確認できない。健康保険証には写真がないので、接種済証と健康保険証を他人から借りてきているかもしれないからだ。

 この問題は、原理的に言えば、ワクチン接種の際にもあった。しかし、ワクチン接種の場合には、接種予約証と健康保険証を他人に貸す人はまずいないだろう。そうすれば、自分が接種を受けられないからだ。

 ところが、国内ワクチンパスポートとしての利用なら、接種済証と健康保険証を他人に貸しても、あまり大きな問題は生じない。返却してもらえば、自分でも使えるからだ。しかも、不正が発覚する確率はあまり大きくないだろう。

 こうして、親切心から、あるいは対価を求めて、他人に貸す人が続出するだろう。そうなれば、国内ワクチンパスポートとしては有名無実のものになる。

健康保険証は、不完全な本人確認手段

 上に述べたのは、日本における本人確認制度が不完全なものであるということだ。

 日本では、健康保険証も本人確認の手段として一定の効力を持つとされている。医療機関で受診するとき、健康保険証を求提示しさえすれば、受診できる。

 しかし、健康保険証に顔写真はない。したがって、厳密な意味では、本人確認はできないはずだ。

 実際、年齢や性別が大きく違っている場合などを除けば、不正使用をしても、まず発覚することはないだろう。

 他人の健康保険証を用いて受診することは、支払うべき保険料を払わずに医療サービスを受けるのだから、本来は犯罪(詐欺罪)になる。しかし、こうしたことが実際に問題になったと聞いたことがない。

 健康保険証が不完全な本人確認手段であることは、「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」の2020年4月1日の改正に伴い、郵便物の特定事項伝達型の本人確認書類は、顔写真がはり付けられているものに限定され、健康保険証は、特定事項伝達型を受け取る際の本人確認書類として利用できなくなったことを見ても明らかだ。なお、特定事項伝達型(本人限定受取郵便)とは、受取人本人だけが受け取ることができる郵便のことである。

【次ページ】マイナンバーカードでデジタル証明ができるのか?
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