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- 2021/06/16 掲載
CBDCだけじゃないデジタル通貨、ホールセール領域の「新展開」とは
FINOLABコラム
UBSが大手15行と進める「FNALITY」
中国がデジタル人民元を2022年の北京オリンピック(冬季)までに本格展開することが報じられ、日本銀行が2021年4月から実証実験を開始したり、米国連邦準備理事会(FRB)が2021年夏までに発行の可能性をまとめたディスカッションペーパーの公表について発表したりと、中央銀行デジタル通貨(CBDC)が大きく注目されている。その一方で、民間銀行による銀行間の決済や清算業務を、分散台帳技術の利用によるデジタル通貨で効率化していこうとする動きも顕在化している。
ホールセール分野におけるデジタル通貨による決済プラットフォーム構築を目指す動きとして、UBSが主導してブロックチェーンベンダーであるClearmaticsとの連携により2016年に始動したUtility Settlement Coin(USC)、つまり「中央銀行がその価値を裏付けるデジタル通貨」のプロジェクトが先行している。その実現のためにFnality Internationalが2019年3月に設立され、世界の大手15行(以下リスト)が出資した。
国・地域(通貨) | 出資行・金融市場 |
欧州(ユーロ) | Banco Santander、Commerzbank、Credit Suisse、 ING、KBC Group、UBS |
英国(ポンド) | Barclays 、Lloyds Banking Group |
米国(USドル) | BNY Mellon、State Street Corporation、Nasdaq |
カナダ(カナダドル) | CIBC |
日本(円) | みずほFG、MUFG、SMBC |
UBSがプロジェクトを立ち上げたこともあり、欧州勢が中心となっている。米国はCiti、Bank of AmericaやJP Morgan Chaseといった上位行は参加しておらず、カストディビジネスに強みを持つBYN MellonやState Streetが参加していることは特徴的である。日本はメガバンク3行がそろって創立メンバーに名を連ねているが、メディアでの扱いはあまり大きくなかった。
Fnalityが推進しようとしている分散台帳技術を利用したデジタル通貨USCの構想は、各国中銀の預け金を裏付けとして発行される各国通貨建てのデジタル通貨を銀行間の資金取引に利用することでホールセール決済(預金など決済手段の提供者間の決済)の効率化を図るものである。法定通貨を発行する中央銀行によって価値が担保される点に最大の特徴があり、債券、FX、資金移動など多様な金融取引に利用できる汎用的な仕組みを作ろうとしている。
多通貨での決済に対応するには、通貨ごとにUSCを設定する必要があるが、通貨間の交換を分散台帳においてどのように実現して記録するかについては、参加行の通貨である米ドル、英ポンド、ユーロ、カナダドル、日本円それぞれでの検討を行っている。
既に、中銀における金融機関口座間で即時決済を行うことによって決済リスクを回避するReal Time Gross Settlement(RTGS)は、日銀ネットなど各国中銀で実現しているが、USCを利用することによって、金融取引と清算・決済を一体的に処理することが可能となり、金融機関の資金効率が向上することが期待される。USCが銀行間で利用できるインフラとして定着すれば、将来的に機関投資家などに利用範囲を拡大する余地はあるが、個人の決済手段として利用することは想定されていない。
FNALITYの構想を実現するためには、中銀預け金を見合いにUSCを発行するための決済用口座(omnibus account)を設定する必要があるが、英中央銀行(Bank of England)はこうした口座の設定を認めるとともに、運用に関する具体的な方針を発表した。これにより、FINALITY実現の裏付けができたことになり、実用化に向けて前進した。今後は他の中銀がどのように対応するかが注目される。
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