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  • 2020/12/24 掲載

リテール向け“だけじゃない”、デジタル時代の「中央銀行マネー」の可能性

日銀 副島 豊氏:「決済システム」の未来

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日銀FinTechセンター長 副島 豊氏が共著で発表した論文「分散型台帳技術による証券バリューチェーン構築の試み」は、証券と分散型台帳技術に関する論考に加え、「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」に関連する情報や海外事例を示している。世の中ではリテール決済用のCBDCの議論が盛り上がっている。しかし、本稿では、セキュリティトークン売買の資金決済にCBDCを用いようという海外中央銀行の先進的な実験が示されている。あまり注目されていないホールセールCBDCについて副島氏が解説する。
取材、執筆:星 暁雄、構成:編集部 山田 竜司、写真:大参 久人

取材、執筆:星 暁雄、構成:編集部 山田 竜司、写真:大参 久人

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日本銀行 決済機構局審議役 FinTechセンター長
副島 豊氏

注目されにくいホールセールCBDC

 第1回第2回ではブロックチェーンを含むDLT(分散型台帳技術)を活用した新しい証券市場の話をしました。

 実は、このお話は最近話題に上ることの多いCBDC(中央銀行デジタルマネー)とつながっているのです。といっても、買物などに利用するリテール決済用のCBDCではなく、ホールセール決済と呼ばれる金融機関同士の金融取引にCBDCを用いるというお話です。

国ごとに大きく異なるCBDC(中央銀行デジタル通貨)の背景

 その話に進む前に、リテールCBDCを導入している国がかなり特殊な事情を持つ国であることに触れたいと思います。

 たとえばスウェーデンのように現金の利便性が低下してしまった国、バハマのように島国であるため現金流通コスト負担が大きな国、カンボジアのように金融サービスが全国津々浦々に行き渡っていない、でも多くの人がスマートフォンは持っている国。

 あるいは、中国のように「銀行でない民間事業法人」がスマホ決済やアプリサービスを通じて国民の生活を支えるリテール決済を寡占し、加えてMMFや金融商品の販売を担う巨大シャドーバンクとなった国などが挙げられます。クレカ以外はSwishという決済サービスが独占化したスウェーデンも中国に似た面があります。

 これらの国では、中央銀行が決済手段、あるいは決済サービスごと提供してしまうという合理性が存在します。カンボジアの場合、国民が使う現金の相当割合が米ドル紙幣であるというドル化経済の問題を乗り越えるための手段にするという相当特殊な事情もあります。

 もちろん、ケニアのM-Pesaのように民間デジタル決済サービスによって、銀行支店網やATM網などの金融サービスインフラの不足を補うという国もあります。

 一方で、多くの先進国のように、現金の利便性やクレカや他のキャッシュレス決済サービス、基本的な金融サービスが充実している国では、リテールCBDCの意義をデジタル化社会におけるイノベーションと社会効率性の促進という観点からとらえることが多いです。

 日本銀行ほか7つの中央銀行とBISが共同でCBDCの可能性を評価するレポートを出しました。そこでは、3つの基本原則が示されています。

 1つ目は通貨や金融の安定性を損なわないという条件、2つ目は民間マネーとの共存・補完という関係、3つ目が民間イノベーションと効率性の促進という目的です。このようにCBDCを出す意味合いは、さきほど紹介した事例国と大きく異なっています。

 日本銀行も10月の同じタイミングで一般利用型CBDCに関する取り組み方針を出しました。CBDC導入時に期待される機能や役割として、3つのポイントを指摘していますが、その一つに、デジタル社会にふさわしい決済システムの構築に繋がる可能性を挙げています。

 あらゆる経済活動はお金を払うという行為が伴います。CBDCというデジタルインフラ基盤のうえにさまざまなサービスが提供されることが社会をより良くしていくことに繋がる。そんな世の中がくるかもしれないことを想定しています。

もっと便利に、もっと安く

 ホールセールCBDCの話に戻りましょう。決済システムには大別して3つの分野があります。「リテール(小口)」「ホールセール(大口)」「クロスボーダー(海外との決済)」です。そのいずれにおいても、安全安心な決済制度やシステムを沢山の関係者の努力によって長い歴史の積み重ねを通じて作り上げてきました。

 しかし、ITの発展とデジタル化の流れの中で、もっと便利に、もっと安価にというニーズや、これまでなかったような新しいサービスを求める潜在的な需要が強まっているように思われます。

 リテール決済では、加盟店手数料を引き下げ、入金サイクルを早くすることが課題の一つとなっています。クロスボーダー送金においても、手数料やスピード、確実性の改善を求める声が強まっています。そのためには、既存の決済インフラの効率性を向上させること、場合によってはインフラ構造の在り方を考え直すことが必要となっています。

 ホールセールも例外ではありません。前述のお話では、証券インフラの効率性向上や決済リスクの削減にDLTを使うという実験的な動きが世界的に拡がっていることを紹介しました。これも、今の証券インフラ上で行われている業務プロセスを改善したい、あるいは部分的な改善でなく全面的な進化のために新しいインフラを立ち上げようというモティベーションに牽引されたものです。

 当然のことですが証券取引では、証券売買の対価を支払う資金決済も必要となり、証券インフラと資金決済インフラが連動して動きます。

 小口投資家を前提とした社債を、たとえばスマートフォンを使って数百円単位で売り買いするビジネスモデルが登場してきたとします。効率的な証券インフラがこれを技術的に可能にしたとしても、資金決済にコストがかかるようでは、こうしたサービスが成立することは難しいかもしれません。

 規模が大きなホールセールの金融取引では、証券や資金の取りはぐれを防ぐ決済の安全性が重要となりますが、コスト面が問題になる場合もあります。また、決済システム間での情報のやり取りをより効率的に行いたい、接続設計のフレキシビリティを持ちたいというニーズも存在します。プログラマブルセキュリティの機能発揮には、DLTで発行管理されるプログラマブルマネーが適切な決済手段となるかもしれません。

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