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ドコモ口座事件に端を発した相次ぐ不正出金被害。今後、銀行のデジタル化対応にはさらに厳しい目が向けられるだろう。一方、地銀を対象としたアンケート調査では、デジタル投資に積極的な姿勢をみせているとはいえ、実態は追いついておらず、そのすき間のニーズにフィンテック企業がサービスを提供している。菅義偉新首相が言及したことで、政府主導の業界再編話でもざわつく地銀のデジタル化の現状と問題点を探る。
地域金融機関の収益性を悪化させる「制度融資」
2020年8月、石川県金沢市に本店がある北國銀行が全国で初めて、制度融資の完全電子化をスタートさせたというニュースが報じられた。
企業への制度融資は助成金と並び、国や自治体の産業政策のメインツール。産業誘致やIT化、不況対策、雇用促進、働き方改革、地方創生、そして新型コロナウイルス対策でも、おびただしい数の制度融資が予算化されており、金融機関を経由して企業に有利な貸付金が供給されている。
コロナ禍で制度融資への申し込みは増えている。企業を担当して回っている地域金融機関の担当者にとっては、その企業の資金需要に応じて「行政のこんな制度融資が使えます」と提案できることは、顧客企業との関係を深めて新規の案件を開拓する上で重要な武器になっている。
しかしながらこの制度融資は、電子化やフィンテックとはやや遠い位置にあった。金融機関と企業で完結する案件であれば、その気になれば申請書類の処理も審査も融資の実行もペーパーレス化、オンライン化しやすい。
ところが、制度融資はそこに「自治体」や地域の「信用保証協会」も入ってくるので、それらを巻き込まない限り、完全な電子化はできない。たとえば「紙の書類での提出が必要」「窓口での書類の確認作業が必要」であれば、それがボトルネックになってスピーディーな融資実行は難しくなる。
制度融資の申請書類は自治体のホームページからダウンロード、プリントアウトできたとしても、金融機関の担当者はそれを企業経営者に記入してもらい、自治体の窓口に提出して承認を受け、続いて信用保証協会の窓口に提出してそこでも承認を受ける。修正の必要が生じれば何度も足を運ぶことになり、事務量がかさむ。
大きな県では県庁所在地まで車で日帰りするだけで1日つぶれることもあり、そのコストは金融機関の負担だ。これでは菅内閣から「地銀は収益性を高めよ」と言われても、現場での努力には限界がある。
制度融資の「完全電子化」に成功した北國銀行
それを突破したのが、行員にはタブレット端末を支給し、ペーパーレス化や勘定系システムのクラウド化、信用保証の電子化など多方面で、全国の地銀に先駆けてきた北國銀行だった。
金融庁の呼びかけで同行など北陸地方の8つの金融機関、石川県など15の自治体、石川県信用保証協会が制度融資の完全電子化で合意し、2020年5月にプロジェクトが発足した。そして6回の会合、わずか3カ月でシステムの運用を開始させている。自治体も特別定額給付金の支給などコロナへの対応で多忙を極めていたが、金融庁が石川県での先進的な取り組みを注視していたこともあり、おおむね協力的だったという。
そのシステムは、セキュリティなどの運用ノウハウが確立していた北國銀行のクラウドを基本インフラに、申請書類の提出、書類の共有、確認、承認や修正の通知、修正・再提出などをすべて電子化させている。金融機関の担当者は窓口に行くこともファクスを送ることも不要になり、制度融資の申し込みから実行までが電子的に処理されて、スピードアップする。
たとえば能登半島は広く、その端から県庁のある金沢市まで車で出張すると1日がかりになるが、出張不要であれば大幅なコスト削減になるという。金融機関の担当者は、時間と労力をもっと生産性の高い仕事に振り向けることができ、その分、金融機関の収益性は向上する。顧客企業にとっても、スピーディーな融資実行によってメリットを享受できるのは言うまでもない。
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