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人口減社会において各地域の持つ社会的な課題を最先端のテクノロジーによって一挙に解決しようとする仕組みが進行している。この「スーパーシティ構想」には、キャッシュレス決済はもちろん分散型台帳技術が使われる展望もあり、フィンテック企業も注目に値する内容である。スーパーシティ構想の現在と未来について、内閣府地方創生推進事務局参事官補佐の井上 貴至氏、内閣府地方創生推進事務局上席調査員の阪本 悟氏が語った。
※本記事は、日本ブロックチェーン協会(JBA)のデジタルガバメント推進分科会が2020年7月6日に主催したオンラインイベント「スーパーシティを知る」の内容をもとに再構成したものです。
テクノロジーの力で日本を変える「スーパーシティ構想」
「スーパーシティ構想」が、いよいよ動きだした。この構想は、各地域の持つ社会的な課題を最先端のテクノロジーによって一挙に解決しようという試みだ。
その名の通り、政府からの指定を受けると大胆な規制改革のもとで、自動運転や行政手続き、またはキャッシュレスなどの最先端技術が導入される。自治体の仕組みだけでなく社会の在り方すら変わっていくという。
こういった魅力的なビジョンもあって現在構想の指定を受けるため、全国の50以上の自治体などが手を挙げている。スーパーシティ構想の実現に向け、どんな改革が進められ、どう変わっていくのだろうか。まずはスーパーシティの前段階にある「スマートシティ」についてみていこう。
現在、世界中ではAI(人工知能)やビックデータを活用して社会の在り方を根本的に変えるような「スマートシティ」の設計が進展している。
たとえば、スペインのバルセロナ市では「スマートパーキング」が実装された。駐車場の空き状況をセンサーで感知して、Wi-Fiを経由して情報伝達し、空いている駐車場へ周囲の車を誘導することで、渋滞の回避や観光客の待ち時間を劇的に減らすことが可能となった。
また、最先端技術によるゴミ収集管理が行われており、ゴミ箱の容量をセンサーが感知し、ボックスが満杯になった際にゴミ収集車を配車する仕組みを導入している。
中国の杭州市では、道路のライブカメラ映像をAIが自動で収集し、異常を認めた場合に警察へ自動通報する仕組みや交通状況に応じて信号機の点滅を自動的に切り替えることで渋滞対策を行っている。また、顔認証のみでのキャッシュレス決済を可能にする「無人コンビニ」も展開している。
次々に各国でスマートシティの実装が進んでいく中で、日本国内でも未来都市の実現を目指して内閣府によって取りまとめられたのが「スーパーシティ構想」である。
この構想では、「国家戦略特区」として地域を限定することで、大胆な規制改革を可能にする。そして、今までは実現が不可能だった最先端技術を導入して、各地域の根本的な課題解決に働きかけるというものだ。従来のスマートシティでは、個別に規制改革が行われていたが、スーパーシティ構想においては、複数の規制を同時一括で改革しようと決議規定が設けられている。
井上氏は「日本にも利用可能な技術要素が数多く存在します。しかし、実証するだけの環境が揃っておらず、技術の実装までに到達しないことが問題でした。住民の意向を踏まえ、生活の中へ最先端テクノロジーを導入していけるところが、スーパーシティの特徴です」と説明する。
スーパーシティ構想では、住民に寄り添った形での未来都市の設計が求められるため、技術者目線ではなく、住民の目線によって実装プロセスが組まれるのも特徴だ。
スーパーシティ構想は、主な課題として以下の10分野が整理されている。
【スーパーシティ構想の主な課題10分野】
・行政手続き
・物流
・支払い
・行政
・医療・介護
・教育
・エネルギー
・環境・ゴミ
・防災・緊急
・防犯・安全
少なくとも5分野以上をカバーした、生活全般にまたがる取り組みが実装される予定だという。
スーパーシティを実現するための核となる「データ連携基盤」
スーパーシティ構想の実現において、大事な核となるのが「データ連携基盤」の存在だ。データ連携基盤によって、各都市でシステムがバラバラな仕様で乱立することを防ぎ、データ連携やサービスを都市間で横展開できるシステムの構築が予定されているという。局所的に最先端テクノロジーを実証・実装するだけでなく、国家戦略特区全体で包括的な応用を図るために都市間の相互関係を確立する必要があるからだ。
さらに、相互連携を強化するために、システム間の接続仕様であるAPIをオープン化することをルールとして整備している。データ連携基盤を中心に、自動運転やドローン、あるいはワンスオンリーの行政手続きやMaaS(Mobility as a Service)などさまざまなサービスを相互に連携させながら実装する。これにより、未来都市の実現を目指していくのが、この構想の本質でもある。
スーパーシティに関わる予算措置に関しては、国家戦略特区データ連携基盤整備事業に3億円の予算が与えられ、2020年度は各スーパーシティエリアに共通する検討を行う。さらに2021年度はこの検討に基づいて、各エリアの持つ課題に合わせたデータ連携基盤を構築する予定だ。
また、具体的なサービス実現のために「自治体のアイディア公募」として、2019年9月には各地56団体から、実際の課題に基づいて技術実装のアイディアが集められた。
代表的なものでは、「高齢者の通院」に関するアイディアがある。たとえば、高齢者の通院にタクシーが使われているが、近年ではタクシー自体の台数が減っており、料金も高いことから、高齢者の方々が通院を断念するケースが増加しているようだ。そこで遠隔診療や遠隔服薬、ドローンでの薬の運搬を導入することで、課題解決を図るということも考えられる。
従来の仕組みを利用する場合、遠隔診療や遠隔服薬であれば厚生労働省と連携が必要だ。また、ドローンでの運搬では国交省などとの調整が必要になる。さまざまな過程が挟まれるために非常に時間がかかっていたのだ。しかし、今回のスーパーシティ構想においては、基本構想を練って地域住民の意向を踏まえ、規制改革案を直接、内閣総理大臣に提出できる。つまり総括的な規制改革を進められるというわけだ。
今回自治体から集められたアイディアは、主に2つの種類に分けられるという。
今までまったく開発がされていなかった地域の課題である「新規開発型(グリーンフィールド型)」と、すでに開発が進められている地域の課題である「既存都市型(ブラウンフィールド型)」だ。
グリーンフィールド型としては、2025年の万博の開催予定地である大阪市の人工島「夢洲(ゆめしま)」などが例に挙げられる。新しく開発が進められることを前提として住民に住んでもらうため、スムーズな住民合意が得られることで規制改革のハードルも低い。
一方で、ブラウンフィールド型では既存の住民の合意を受ける努力が必要になる。そのため、大胆に開発を進めていくことが難しい。スーパーシティ構想は、あくまでも住民目線の開発を目指しているので、住民合意のプロセスが非常に重要になってくる。まずはグリーンフィールドの開発を大胆に進めていくことが、スーパーシティの基本的な発想だ。
【次ページ】企業と自治体をどのようにマッチングさせるのか