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  • 2019/11/11 掲載

銀行員の転職、他業界で評価されるのはあのスキルだ

銀行・銀行員のこれからを考える 第2回

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関係者へのインタビューを通じて銀行の在り方・銀行員のキャリアを模索する本企画。後編となる今回は、銀行員のキャリアを中心に考察する。銀行にとどまることがもはやリスクになる時代が来ているのか。また、他業界に転職した際に銀行員が評価されるスキルとは何か。
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銀行員のどのようなスキルが、他業界に行っても評価されるのか
(Photo/Getty Images)

前編はこちら(※この記事は後編です)


銀行員に自発的なスキルアップが必要な理由

 銀行の店舗に行くと多数の行員が働いているが、窓口業務だけではなくバックオフィスでも、パートや派遣、契約職員、定年再雇用の嘱託職員といったいわゆる「非正規雇用」への切り替えが進んでいる。また、手形や小切手のほかにもまだまだ紙ベースの帳票類は多いが、少しずつ電子化が進んでいる。これまでマンパワーをかけていた業務もAIやRPA(Robotic Process Automation)の導入で効率化されてきている。

 「銀行の人員削減の本丸は総合職の処遇ですが、外堀はほぼ埋まっています」と、労働経済に詳しい銀行系シンクタンク研究員(以下、D氏)は指摘する。

 「店舗の統廃合はこれからが本番。管理職のポストが減れば、総合職のキャリアパスは大きく変わります」とD氏。

「かつては、幹部候補の選抜は30代半ばから後半が中心でしたが、今では30代前半です。銀行員として出世したいのであれば、入行10年がひとつの節目ということになります。その間に、どれだけ銀行の外でも通用するスキルを獲得できるかが、キャリア選択の幅を広げるポイントになります」(D氏)

 日本型雇用慣行の特徴の1つに「賃金の後払い」が挙げられる。20代、30代は労働生産性よりも賃金を低く抑え、40代、50代の賃金を高くして退職金や年金を含めた生涯賃金で帳尻を合わせる。この仕組みは、雇用環境が安定していて企業の成長が見込める状況だとうまく機能する。若年労働者が増加すれば、生産性に比べて賃金を低く抑えていくことができる。

 労働者側からすると、早いうちに辞めてしまうと損をするので、1つの企業に長く留まるインセンティブがあり得る。企業側からすれば、割安な労働者をつなぎ止めるために、別の企業でも通用する一般的人的資本だけでなく、その企業でのみ有用な「企業特殊的人的資本」の蓄積を求めることになる。

 転職すると、企業特殊的人的資本が剥落する分、給料は下がる。中高年の怠業を防ぎモチベーションを維持するために、管理職としてのポストが機能しているのだ。企業内の評価や現役時代の賃金だけではなく、退職金や年金の算定にも影響していた。

 D氏は「ただ、こうした条件は今の銀行には当てはまりません。成長産業ではありませんし、年齢構成もいびつでポストも限られています。50代後半であれば『逃げ切れる』と思いますが、先輩のキャリアパスを追いかけるだけだったという40代の方であれば、かなり厳しいことになりそうです。銀行本体のポストは限られますから、子会社・関連会社への転籍で大幅な賃金ダウンを覚悟しなければなりません」と指摘する。

 もちろん、銀行の人事には良い面もある。ジョブローテーションで預貸証(預金・貸出・証券)や決済といった「金融実務」を一通りこなせるようになるのだ。座学的な業務だけではなく、営業実績を上げることも求められ、債権回収はタフな交渉になるので暗黙知的なスキルも鍛えられる。

 その上で「就職人気企業ランキングで銀行の順位はだいぶ下がっていますが、銀行を志望する学生の質は下がっていませんし、平均して見れば上がっているかもしれません。銀行に就職するメリット・デメリットを勘案していますし、よく勉強している学生が多い印象を受けます」と就職活動事情を説明する。

「新卒から定年まで銀行で勤め上げることは難しくなりましたが、転職市場を見ても銀行員の引き合いは強いですし、ジョブローテーションをこなしながら、ほかの企業でも通用するスキルをひとつでも身につけるようにすれば、世間で言われているほど悲観する必要はないと思います。いわゆるT型人材(特定の1つの分野を極めた上で、他分野にも精通する人材)になれるかどうか」(D氏)

 もちろん、バブル期と違って海外留学は狭き門となる。そればかりではなく、たとえば、日経センター(日本経済研究センター)への派遣も少なくなったという。

 同研究員は「銀行からすれば、日経センターへの派遣費用(委託研修費用)として約200万円がかかり、日経センターでリサーチ業務をしても、その間の人件費は銀行負担となり割に合わないという思いなのでしょう。それだけ銀行に余裕がなくなっていて、自発的なスキルアップが必要ということです」と現状を分析している。

VUCA(ブーカ)の時代に取り残されている銀行

 銀行を退職した現役世代は現在の銀行や銀行員のキャリアをどのように見ているのか。2018年に新生銀行を退職し、現在は複数の企業で“スポットCFO”を勤める村上茂久氏が実名でのインタビューに応じてくれた。

 村上氏は「長い人生を考えると、自分でキャリアを主体的に選択するのが難しいという観点から、銀行に留まることのリスクが大きいと私は考えました。銀行員のキャリアは外部環境に大きく左右されてしまいますし、多くの銀行では“53歳までに役員になれるかどうか”でその後の行員人生が激変します」と赤裸々に語る。

 さらに「ほかの企業にも言えることだと思いますが、組織が大きいと個人がキャリアの選択権を持つことは難しい。長く主体的に働くために独立を選択しました。VUCA(ブーカ)の時代と言われるほど、先の読めない時代にも関わらず、リスク回避思考に凝り固まる業界特有の空気感に違和感を覚えたことも理由の1つです」と説明する。

 VUCAとは「Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)」の頭文字から取った言葉で、近年は激変する現代社会を指して使われることが多い言葉だ。

 銀行業務は基本的にダウンサイドリスク(下振れリスク)の回避である。Equity(資本)を投資すれば、企業が成長することに賭けることができるが、貸出というDebt(負債)のビジネスでは、企業が成長しても得られる金利収入は変わらない。

 「よく誤解されるのですが、伝統的な銀行の目利きとは、金利と元本という債権を確実に回収できるかどうかの見極めおよび契約での仕組み作りです。必ずしも“リスクはあるけど成長を期待できる企業”を見分ける能力ではありません。Equity(資本)とDebt(負債)では同じ金融でもビジネスモデルが違うので、求められる能力も異なります」と村上氏は語る。

 また、銀行員が別のキャリアを選択する場合、メンタリティやマインドセットといった言語化しにくい領域が課題になるかもしれないという。「多くの銀行員はリスク回避的でマニュアル主義ですが、世の中、そうした業界の方が少ないです」(村上氏)

 一方で、村上氏は「スキルや知識は重宝されると思います」と語る。行員時代に携わった証券化や不良債権、プロジェクトファイナンスの知識は役立っていて、弁護士や会計士などの専門家とテクニカルな内容で話を詰めることができる人は案外少ないことに気づいたという。過度なリスク回避はビジネスマインドを削いでしまうが、締めるところは締めなければいけない。

「銀行員が培ったコンプライアンス意識は、つい勢いに流されがちなスタートアップで有用だと感じています」(村上氏)

【次ページ】新しい発想が生まれにくい体質を持つ銀行という組織
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