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  • 2019/10/17 掲載

世代間の争いも拡大、高齢化社会は「これまで以上に格差が開く」

連載:橘 玲のデジタル生存戦略(2)

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人生100年時代を生き抜くためには、適切な資産戦略が必要だと作家 橘玲氏は語る。超高齢化社会、「全員の面倒は見られない」というのが国の本音で、当てにできるのはお金に対する自らの才覚一つだという。20代のスタート時点は同じだが、30代、40代になって差は確実に開いていき、長く生きる時代からこそ、持てる人、そうでない人の間の格差が今まで以上に大きく開いていくのは、もうまぎれもない事実のようだ。
執筆:作家 橘 玲
画像
少しずつ、そして覆しようのない大きな差が付いていく
(Photo/Getty Images)

国の本音は「自分のことは自分でやってほしい」

 働かなければお金は稼げませんが、資産を増やすには「運用」の視点も重要です。個人的には、「使える制度はすべて使う」ことをおすすめします。iDeCo、NISA、積み立てNISAなど、税の優遇のある制度は全部使って、将来のために資産形成するべきでしょう。

 というのも、国の本音は「もう高齢者全員の面倒は見られません。自分のことは自分でやってください」ということだからです。そのために、個人が老後の資産形成をしやすくなる制度を積極的に拡充しているのです。

 国民の意識も変わっています。かつて厚生労働省は、「年金は若い世代から親世代への仕送り」だとして、年金の損得を論じること自体が不道徳だといっていました。でもこれは、現役世代5人で高齢者1人を支えていた余裕のある時代の話で、だからこそ、「戦争で苦労したんだし」という暗黙の了解が形成できたのです。

年金をめぐって世代間の軋轢はさらに拡大する

 第一次安倍政権のとき、社会保険庁が管理しているデータに大量の誤りや不備があることが発覚し、国民の年金に対する見方が一気に厳しくなりました。

 こうして、「自分の親でもないのに“仕送り”だなんて冗談じゃない」と考える人が大半になり、仕方がないので厚労省も、ねんきん特別便で「これまでいくら保険料を払って、年金でいくら戻ってくるのか」という収支を伝えるようになりました。もっともそのままではサラリーマンの年金収支が大きなマイナスになっていることがバレてしまうので、年金保険料から会社負担分をまるごと削って収支を無理矢理プラスにしているわけですが。

 日本ではこれから団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、2040年に向けて高齢化率はさらに高くなっていきます。その半数程度は年金がないと暮らしていけないひとたちですから、年金問題は政治的にもっとも敏感な問題、すなわち「誰も触れることができないタブー」になりました。金融庁の報告書に端を発した「老後2000万円不足問題」のバッシングで、このことはすべての政治家・官僚が思い知ったでしょう。高齢者世代の唯一の目的は、年金や医療・介護など社会保障制度の既得権を死守することなのです。

 年金保険料を支払う現役世代は少子化で減っていき、いずれ1.5人で1人の高齢者を支え時代がやってきます。そうなれば「こっちだってぎりぎりの生活をしているのに」という反発が高まるのは必至で、年金をめぐる世代間の軋轢でさらにギスギスした世の中になっていくでしょう。

年金は受給を繰り下げて金額を増やす

 かつては「年金は繰り上げて受給した方が得」といわれましたが、「人生100年時代」ではこの方法はもはや時代遅れです。長く働いて、できるだけ年金の受給開始を繰り下げるのがこれからの人生設計の基本です。

 現行制度では、65歳からの年金を70歳まで繰り下げると受給額が1.4倍になります。政府はさらに75歳や80歳まで受給開始を延ばすことを検討していて、おおざっぱに試算すると、80歳からの年金受給額は65歳支給時の倍になります。

 サラリーマンが加入する厚生年金の平均受給額は月額約15万円ですから、80歳まで繰り下げることで月30万円になります。これだけで80歳からの「老後」の余裕は大きくちがうでしょう。「国民年金の月6万円ではとうてい暮らせない」と批判されますが、これも80歳まで繰り下げれば12万円、自営業者の夫婦でも月20万円以上になります。

 年金の繰り下げは年利7%超で資産運用するのと同じですから、現在の超低金利を考えればとてつもなく有利な投資機会です。これまでの通説とは逆に、年金は繰り下げれば繰り下げるほど得になります。

【次ページ】高齢化社会になればなるほど格差が開いていく理由
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