0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
外部の知見を積極的に取り入れてビジネスモデルの変革を促すオープンイノベーションは、規制面での制約が多い金融分野では困難というイメージを持たれがちだ。時代に即して金融機関が自らを変化させる上で、一体何が障壁となっているのか。また、現状を打ち破るには何が必要なのか──金融におけるイノベーションの促進に取り組んできる金融革新同友会FINOVATORS共同創設者で東北大学大学院情報科学研究科特任准教授(客員)の蓮村俊彰氏と、UI/UXの点で金融機関と組むことが多いセガ エックスディー取締役 執行役員 CSOの片山智弘氏にそれぞれの考えを聞いた。
聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司 執筆:川辺 和将
聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司 執筆:川辺 和将
金融業界のオープンイノベーションの特徴と課題
蓮村俊彰氏(以下、蓮村氏):金融業界は現在、ほかの分野に負けないくらい、オープンイノベーションの取り組みが活発です。これは、恐らく10年前を知る人からすれば隔世の感があるというか、驚くほど大きく前進したのだと思います。
一般的に金融業界というのは許認可が必要となる世界であり、各事業者は投資家保護、消費者保護、システムの安定性の観点で当局から厳しく監督されています。そういう中で、オープンイノベーションの取り組みを前に進めてきた人たちの血と汗と涙の努力というものがあるのだろうなと感じます。
金融界隈の特徴の1つとしては、業界団体を作る動きに発展しやすいことが挙げられるでしょう。1つひとつの事業者がそれぞれ監督省庁に出向き、あれこれとパラレルに申し出たところで、先方も忙しいのでなかなか進みません。
そこで同じ方向を目指している人たちが、仮にライバルであっても一度協力して意見すり合わせ、陳情、嘆願、提言のような行動をとることで、時代に即さなくなってきた規制の見直しや、新しいルール作りを効率的に進めることができます。許認可といった法律の存在を前提とした動き方がこの産業の特徴であり、また面白さでもあると思っています。
片山智弘氏(以下、片山氏):金融業界におけるオープンイノベーションの課題として、まずユーザーインサイトの深掘り不足がみられることがあります。お金というものは基本的に情緒的ではなく、価値とベネフィットが効率的に表現されている存在といえます。
利息の利率といった経済的な価値はある程度、あらかじめ決められてしまっているので、本来はそれ以外の価値提供のあり方でも勝負をする必要がありますが、その部分の知識の蓄積がより必要なのではないかという印象を持っています。
実は金融機関の店舗や営業などで顧客と接する業務に携わる人々は、お客さまへの普段のサービス提供の中でも高精度なユーザーインサイトを磨き上げているものです。しかし、残念ながらそうした人材の方が金融領域のオープンイノベーションの分野にやって来ることが珍しく、新しい事業を作り上げる際にコンシューマーの理解が少し足りないのでもったいないと思うこともあります。
中には現場で人材が育ってオープンイノベーションに携わる部署へ配属され、せっかく良いアイデアを打ち出したのに、テクノロジーへの理解が十分でない経営層から安全面で難色を示され、本人がベンチャー企業に転職してしまうという残念な事例も目にしてきました。
ルールを守ることも特に大切な堅い業界であることを自覚した上で、失敗を許容するカルチャーをいかに作り上げるかが、マネジメント上の大きな課題だと思います。
【次ページ】金融業界におけるオープンイノベーションの課題と解決方法とは?
関連タグ