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金融庁は近年、フィンテックの進展・拡大に対応するための体制強化を進めています。従来から継続している相談窓口の運営、実証実験サポートなどの取り組みに加え、22年7月にはイノベーションを推進する専門部署が新設されました。テクノロジーの進化は既存の規制枠組みをどのように変えていくのか。そして、イノベーションの推進と規制をいかにして両立するのか──金融庁のチーフ・フィンテック・オフィサー、牛田遼介氏に考えを語ってもらいました。
聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司 執筆:川辺 和将
聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司 執筆:川辺 和将
「守り」と「攻め」の一体化
牛田遼介氏(以下、牛田氏):まず前提として、金融行政方針にも掲げられているように、金融庁には3つの役割あります。公表資料をご覧いただくと、3つの役割を記した項目の後ろに、記号の「スラッシュ」(/)がついていますが、私なりの解釈ではスラッシュの後段に入る要素が、金融庁が果たすべき役割のうちイノベーションにより深く関わる部分ではないかと考えています。
- (1)金融システムの安定/金融仲介機能の発揮
- (2)利用者保護/利用者利便
- (3)市場の公正性、透明性/市場の活力
※「金融庁パンフレット」より。太字は編集部
とりわけ、テクノロジーを活用して利用者利便を向上させていくという、金融機関やスタートアップ事業者による前向きな取り組みを後押しするのが、新設されたイノベーション推進室の基本的なミッションです。
ただし当然、イノベーションであれば何でもよいというわけではなく、利用者保護や金融システムの安定といった目的との両立が不可欠です。イノベーション推進室というのはその意味で、スラッシュの「前」と「後ろ」の両立をいかに達成していくかを考える部署だと思っています。
もともと金融庁内には、フィンテックについてモニタリングを行う部局と、推進する部局(フィンテック室)が別々に存在していました。利用者保護や金融犯罪防止の重要性を踏まえてイノベーション推進を行っていくためには、モニタリング室とフィンテック室と別々の指揮系統下にあり、それぞれの担当者が抱いている課題認識について、必ずしも十分に共有できていないのではないかという問題意識がありました。
そこで、昨年7月の体制変更でフィンテック参事官室の下で両者を統合することになったのです。イノベーション推進室を含め、現在は総勢50人ほどの人員で『守り』と『攻め』の部分により一体的に取り組むことができる体制になったかと思います。
相談業務がトレンド把握の機会に
牛田氏:事業者の方に話を伺うと、金融庁は敷居が高く、フランクにディスカッションするような関係を築きにくいという声が聞こえてきました。もちろんモニタリング部局からすれば、事業者に何か問題が見つかった場合には厳しく対処する必要があり、そのこと自体が間違っているわけではありません。ただ、だからといって『新しいことをやろうとすると、また金融庁に怒られるかもしれないからよしておこう』と、前向きなイノベーションにさえ事業者が委縮してしまうような状況は、好ましくないと思っています。
こうした課題認識のもとで、金融庁側とスタートアップを含めた事業者側との距離を縮めるということを、私なりにこの1年の目標として取り組んできました。相談を受けた個々の事業者を支援する取り組みや、FIN/SUMやミートアップのようなイベントの開催を通じ、イノベーションの担い手となる方たちと当局との距離は、1年前に比較すると縮まった部分もあるかなと感じています。
一方で、事業者側が抱いている問題意識について私たち自身が理解することも重要ですが、その面での取り組みは道半ばだと思っています。デジタル資産やAIなどさまざまな分野でディスカッションの機会を設け、今後さらに解像度が上げていく必要があります。
たとえば海外のフィンテック系のイベントに赴くと、日本に進出したいという現地のフィンテック事業者の方々と出会うことがままあります。ライセンス取得に係る質問や日本でのパートナー探し、人材採用まで相談は多岐にわたりますが、革新的な取り組みをされる事業者の方にはさまざまな方向からのサポートが必要になってくるかと考えています。
事業者の方々の「お悩み相談窓口」であるFinTechサポートデスクは、「柔らかい相談でもいいので、ここに問い合わせてください」という趣旨で、事業者の方向けの新たなインターフェースとして2015年に開設されました。サポートデスクの取り組みが、事業者に有益な支援を提供できているということを願っていますが、一方で私たちにとっても、技術のトレンドやビジネスのトレンドを把握する、非常に良い機会になっています。
たとえばこの1年ほど、web3やブロックチェーンに関連する相談が顕著に増加しています。また、送金・決済についての相談は以前から継続的に多い傾向があります。
政策を検討していく上では、そもそも事業者がどこに問題意識をもっているかを把握することが極めて重要ですので、リアルな声を聞くことができるサポートデスクという場所の機能については、今後も強化をしていきたいと思っています。もっとプロモーションを行い、より多くの事業者の方に存在を認識していただくく必要があるとの課題意識も持っています。
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