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- 2023/06/13 掲載
用途少なすぎ?「ステーブルコイン」発行しても…商売チャンスは“ほぼナシ”と言える理由
ステーブルコインには2種類ある
社会一般にデジタル通貨として馴染みがあるのは暗号通貨(仮想通貨)のビットコインだろう。ビットコインはそれ自体に裏付けとなる資産はなく、システムを維持するために提供されたコンピューターのリソースが、ある種の投下労働価値のような形で資産価値を担保する仕組みとなっている。一般的な非デジタル系の資産と比較すると、ビットコインは金に近いような存在であり、その価値は市況によって、随時、変動することになる。
ビットコインの価格が激しく上下しているのはこれが原因だが、価格が安定していないと決済手段に用いるのは難しくなる。かつて金本位制の時代においては、金が貿易の決済手段として使われていたが、現代では金が決済手段に使われるケースは特殊な事例を除いてほとんどない。
ビットコインのこうした特徴に対して、価格を安定させ、決済手段として使えるようにとの意図で開発されたのが各種のステーブルコインである。
ステーブルコインには大きく分けて2種類があり、1つは円やドルなど、実際に流通している法定通貨の価値を裏付けとしたもの、もう1つは裏付けとする資産はないものの、金融工学を駆使して法定通貨と価格が連動するように設計したものである。
全世界的に流通したステーブルコインとしてはテザー(USDT)とテラ(USTC)が有名だが、テザーはドルの価値を裏付け資産としているため前者に分類され、テラはアルゴリズムによる価格連動を目指したシステムなので後者に分類される(ちなみにテラは2022年5月、価格維持に失敗し暴落している)。
これまで各国の法体系の中には、ステーブルコインを明確に定義する条項がなく、法的には曖昧な位置づけが続いてきた。日本の法律もステーブルコインに関しては位置付けが明確ではなかったが、2022年6月、世界に先駆けてステーブルコインを規制する法律(改正資金決済法)を成立させており、今年の6月に施行された。
今回、施行された法律では法定通貨を裏付けとしたステーブルコインだけが規制対象となっており、テラのようなアルゴリズム連動型のステーブルコインについては、引き続き検討を行い、今後、規制対象に加える方針だ。
仮想通貨の受け皿としてのニーズはあまりない
改正法ではステーブルコインの発行者について、銀行、信託会社、資金移動者の3事業者に限定しており、誰でもステーブルコインを作れる状況にはなっていない。ステーブルコインの市場での流通を担う事業者に対しては登録を義務付けており、消費者保護を図る方針である。シンプルに言ってしまうと、今回、認められたステーブルコインは、たとえば日本円の100円を担保にして、同じ価値を持つデジタル通貨を発行するというものであり、イメージ的には電子マネーにかなり近い。電子マネーはそれ自体を送金することはできず、事業者のプラットフォーム内での移動や決済に限定されるが、ステーブルコインの場合はコイン自体を支払い手段として使うことができるので、ネット空間上で自由に送金できる。
いくつかの事業者がステーブルコインの発行を検討しているとされ、大きな事業機会があるとの報道も出ているが、現実問題としてステーブルコインが活躍できる局面はそれほど多くなく、市場は限定的なものとなる可能性が高い。
現時点においてステーブルコインが最も多く利用されているのは、仮想通貨取引所における換金用途である。ビットコインはその性質上、海外への送金が容易であるため、各国政府は自国の金融システムが不利にならないよう、ビットコインの取引に厳しい規制を加えている。
一部の事業者は法定通貨との交換も可能だが、そうではない事業者も多く、ビットコインを売却した際に換金手段がないという事態に直面してしまう。こうした事業者はテザーなど米ドルにリンクしたステーブルコインに対応することで、利用者はリアルなドルではなくステーブルコインでドルを受け取るのが一般的だ。
日本の場合、ビットコインの海外送金には一定の規制が加えられているが、登録した仮想通貨取引事業者であれば日本円との交換は可能である。したがって、もっとも大きな市場である仮想通貨の受け皿としてのニーズはあまりないと思って良いだだろう。 【次ページ】送金ニーズはあるが、銀行とのシェア争いは必至
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