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- 2024/02/08 掲載
世界で唯一法制度化された日本のステーブルコイン、海外よりも「勝機アリ」のワケ
連載:ステーブルコインの実際
ステーブルコイン、日本と海外の「得意と不得意」
三根公博氏(以下、三根氏):ステーブルコインについて、海外のドルペッグ型のテザー(USDT)と今回の日本の電子決済手段との比較で、「これはできる、これはできない」ということはありますか?藤井達人氏(以下、藤井氏):現在ステーブルコインが法制度化されているのは日本だけという認識です。過去数年払拭できなかった「ブロックチェーンは怪しい」というイメージは、ニーズのあるユースケースを作り続けることができれば「安心感」へと変わる可能性が高いでしょう。
一方、日本のステーブルコインや電子決済手段は、海外に出ていくことを想定した法制度にはなっていないと思います。日本のステーブルコインを海外へ持っていった際には、海外の法制度だったり、解釈によって「使える/使えない」が決まるという話になってしまいます。
また、日本のステーブルコインが海外に展開した際に、海外の方が使うのかというと、恐らくそうはならないでしょう。世界における基軸通貨で、世界中のモノが売買されるドルと違い、日本円のステーブルコインはあまり海外に広がらないでしょう。海外でも使われるステーブルコインを作りたい人にとって、今回の法律で定められた電子決済手段はなかなか厳しいと感じます。
三根氏:齊藤さんは今回のステーブルコイン制度の「得意/不得意」をどうみますか?
齊藤達哉氏(以下、齊藤氏):個人と法人で違いますが、個人が店頭決済でステーブルコインを使うという未来はあまりなさそうです。なぜなら今、そこそこ便利な決済手段があって、店頭決済でステーブルコインを使う必然性がなく、資産としての保有コストが高過ぎるからです。
では、法人に日本産のステーブルコインが使われるかどうかというと、それは「規制次第」でしょう。海外のコインと比べた際に、日本にあって海外にない点は、「規制当局が実効性(規制のエンフォース)を確保しているか否か」と「ディペッグするか否か」です。
今のところ日本のステーブルコインは、きちんとエンフォース(規制当局が実効性を確保)され、かつディペッグも払い戻し請求できる「要求払預金」での運用が義務付けられているので「絶対にしない」仕組みです。この条件であれば本来、「世界で一番安全なステーブルコイン」になれるはずです。
スキームとしても、海外の企業が日本の信託を使って海外通貨建のステーブルコインを発行することもできます。ウォレットの議論でも挙がりましたが、業者間で直接取り引きしようする場合、トラベルルールの壁はある一方、「事業者から個人が自分のウォレットに出庫してそこから先は自由に使う」ことは可能です。
エンフォースされたコインでそれができるという話なので、その点では恐らく相対的に「今有利だけれど長続きしない優位性」なのです。
「日本の法律に続け」と、香港やシンガポール。欧州、米国で、きちんとエンフォースされた形のステーブルコイン規制制度が出てくるとみており、今しかチャンスはないと思います。
一方、現在ある程度日本でステーブルコインを発行しても海外居住者の方があえてこれを使うかというと、きっかけがありません。たとえば日本企業が貿易で使う場合は、相手方も日本企業や日本法人の海外本支店なので、その際は、日本産のステーブルコインを使うインセンティブはあります。そのようなケースで、今の内にデファクトを取る──。
日本のステーブルコインが「突然ディペッグしない」「海外当局から将来的にはじかれる可能性があるコインを使うよりも安心」という共通認識がある状態をいかに早く作るかが勝負だと思います。今後2年でその状態まで到達できるかどうかが、日本発「デジタルアセットの決済基盤」の勝負に勝てるのか、それとも今までどおり他国の後塵を拝すのかの分かれ目でしょう。
2024年1月31日、三菱UFJ信託銀行と、Progmat、STANDAGE、Gincoの4社は「国産ステーブルコイン」による「貿易決済システム」の実用化への共同検討を開始すると発表した。世界の貿易取引総額は約2,800兆円のうち約4割を占める新興国との貿易について、 外貨規制や信用状取引の制限からドルでの取引が難しい現状に対し、2024年内に日本初のユースケースを創出することを目指すとした。
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