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金融庁は地域金融機関に、自治体との連携により、地域創生に貢献することを要請しており、かねて地域金融機関は自治体向けの支援活動に余念がない。また昨今、自治体DXや地域データの利活用も着目されており、地域金融機関によるデータ分析および自治体への還元による地域貢献にも期待がかかる。本稿では、金融機関としての地域データ利活用および地方創生に向けた展開イメージを3回に亘って解説する。第2回となる本稿では、人口動態データの読み解き方を取り上げ、利用手法と活用イメージを解説する。なお、本稿は大野博堂と坂田知子が担当する。
導入作業で欠かせない地域特性の把握
前回、金融機関が アンケートなどで「地域に本当に必要なもの」を把握することは困難である点を紹介した。
地域支援を行う際、まず準備動作として重要となるのが、対象地域の特性を理解することである。そこでまずは「まちの概観」を見渡すことから始める。
地域特性は定量、定性の両面でアプローチする必要があり、前者は統計データなどにより地域の現状を俯瞰し、後者では定量分析から見えてきた課題の背景などを紐解く作業が中心となる。
前者の定量分析を行う上で有用となるツールの代表例を以下に掲示した。中でも直感的に利用しやすいのがRESASだ。RESASは国が提供する地域版統計情報サービスで、自治体における地方創生の取組みを情報面から支援することを目的に、経済産業省と内閣官房(デジタル田園都市国家構想実現会議事務局)が提供している。
対象地域の「まち」の賑わい、交通事情、交流人口のほか、人口動態や産業構造などを探る上で欠かせないツールとして位置付けられている。
なお、人口動態は別途自治体が作成し公表している人口ビジョンを併用することで、社人研推計などによる詳細な足元の値と将来推計値も得られる。実務においては、地区別などの人口動態を人口ビジョンで捕捉した上で、年齢階層別・男女別の人口動態をRESASで可視化してみる、といった使い分けをしている
RESASとして公表されている情報は、自治体向けにはより仔細な情報が共有されているものの、オープン情報として一般にネット上で利用可能なものは、若干ながら提供される情報の粒度と公開範囲が限られている点に留意が必要だ。
自治体には国からIDとパスが配布されており、職員のみが利用可能なデータが豊富に提供されているため、自治体経由でこうしたより詳細な情報を提供してもらうのも得策だ。
実際、筆者らのチームでは、オンライン版のRESASで概観を見渡し、初期の調査仮設を構築した上で、より詳細な情報の有無の確認と該当データの提供を支援先の自治体に依頼する、といった形態を採っている。
RESASでみた地域の概観:鴨川市の場合
ここでは実際のデータを確認しながら解説を加えてみよう。
以下は千葉県鴨川市における人口動態の変化をRESASから抽出し、可視化したものだ。
左側に男性、右側に女性がプロットされ、縦軸に年齢で階層を切っている。鴨川市では、2015年は実績値、2030年と2045年は鴨川市が作成し公表している将来推計値が示されている。ここで注目すべきは赤い枠で囲った「15歳から49歳の女性割合」の動態変化だ。それぞれの枠内の面積の遷移をみるとわかりやすいのだが、全人口に占める当該年齢層における女性割合に明確な減少が生じない見通しが示されている。
しかしながら、同じ年齢階層の男性の変化をみると、女性ほどの明確な変化は見受けられない。ここから得られる仮説は、「鴨川市には、若い女性を誘引する働く場か学ぶ場が提供されている」というものだ。ポイントは男性ではなく女性を誘引する材料の存在に気付けるかどうかだ。
【次ページ】定性分析の基本となる振興総合計画の分析
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